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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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例えばそういう恋の話

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どれほど荒んだ世界といえど、人がいれば街はできる。
 男がいれば、男を癒す施設は必要とされる。
 その茶店もその一つ。夜になれば若い娘が客としてやってきた者へ金子の代わりに酒と癒しを与えてくれる。そのような店だった。
「今日は秀吉公と孫市さんは来ないんですねぇ」
「秀吉殿は奥方に掴まって、孫市殿はあの太陽のような娘さんに掴まっていたようだよ。今宵は二人共出て来れそうにはないね」
 しかしこの世界。そうした店の需要に対して応えるに十分なほどの若い娘がいるわけでもなく。
 時間が来て他の卓へと行ってしまった娘を見送り、次の娘がやってくるまでに空き時間ができてしまうこともままある。
 そうした繋ぎの時間にぼっと出てきた話だった。
「ま、確かに所帯持ちと彼女持ちが入り浸るような店でもないですしね」
「そういう左近殿だって彼氏を放っておいていいのかな?」
「…はぁ?」
 同行した郭嘉に唐突に振られた言葉を理解するのに数秒。意味を理解しても意図が読めずに左近は頓狂な声をあげてしまう。
「おや、違ったのか。私はてっきりそうだと思っていたのだけれど」
「…いやー…何の話です?」
「随分といい仲に見えたんだけどね」
「そういうのじゃないですよ、あの人は」
 話をしている内に左近の脳裏に一人の姿が浮かぶ。
 このように言われるとすればあの仙人の他に思い当たらない。
 思わず否定をすれば、酒の入った杯を手にした郭嘉がにっこりと笑顔を見せる。
「何だ。思い当たる節があるんじゃないか」
「…カマかけたって訳ですかい?」
 頬を引きつらせる左近に、郭嘉はまあまあ、と宥めるように手を振って酒の肴を勧め。
「さて、ね。…でも、気にはなっていたんだ。あんなに貴方を想ってくれているのに、なぜ応えないのかなって」
「何いってんですか。相手は男ですよ?応えるもなにもないでしょう」
 片手に酒の入った杯を手に、もう片方の手をないない、と横に振って。
「そうかな。恋しいと想ってくれる相手に恋ができるなんて、素敵だと思うけれど」
「いやもう、勘弁して下さいよ…」
 言いながら、左近は手にした杯から酒を煽るように飲み干す。
 卓に置かれていた徳利を取って空いた杯に手酌で酒を注ぎながら、ぽつりと口を開いて。
「…それに今更ね。恋だの愛だの、そんなもんに本気になるような年じゃないんですよ」
「そうかな?恋に年齢なんて関係ないと思うけれど。ましてや性別や、生きる世界なんていうのもね?」
「………そう簡単な話でもなくってね」
「…成程?貴方が軍略家島左近であることに誇りを持っているのはわかったよ。…でも結局、貴方自身はどう思っているのかな?」
「…郭嘉さん。俺は、俺以外の何者でもありませんよ?」
 徳利には杯を満たすだけの酒は残っておらず。
 逆さにした徳利から滴る酒を眺めながら左近は言う。
「そうだね。その通りだ」
 郭嘉はそれだけを言って手にした杯に静かに口をつける。
 直後に華やかな衣に身を包んだ娘たちが卓へと訪れ、その話はそれっきりとなっていた。



「ああ、伏犠殿ではありませんか。丁度良かった」
「郭嘉か。いかがした…と、聞くまでもないな」
 陣地で女媧と立ち話をしていた伏犠の下へ、酔いどれになった左近に肩を貸した郭嘉がやってくる。
「あー、伏犠さーん。に、女媧さんじゃないですかー」
 郭嘉に肩を支えられながら陽気に手を振る左近に女媧は呆れたように肩を竦めて伏犠を見て、伏犠はすまん、と片手を立てるだけで謝って二人の下へと歩み寄り。
「世話をかけるのう、郭嘉」
「いえいえ、もう慣れましたので」
 当然のように郭嘉から左近の肩を借り受け、伏犠は左近を連れて割り当てられた天幕へと向かって歩いて行く。
「…もうそろそろ、諦めてもいい頃だと思うんだけどね」
「まったくだな」
 残された郭嘉がため息混じりに呟けば、背後からとうの昔に立ち去ったとばかり思っていた涼やかな声が聞こえてくる。
「…ですよね?では、お二人がいなくなった所で、我々もお話といきましょうか?」
 振り向けば即座に消えてしまいそうな気がして、郭嘉は背を向けたままに声を投げるが、返ってくる言葉は冷ややかなままで。
「生憎だな。話ならもう間に合っている」
「ならば、お話以外、ですか?」
「ハハッ。私に指一本でも私に触れてみろ。その指先から細かく丁寧に斬り刻んでやるぞ?」
「それは残念」
 言いながら振り向けば、そこには既に仙女の姿はない。
「…まあ、声が聞けただけでも十分、かな」
 郭嘉はそう呟いて、飄々とした足取りで陣地の奥へと歩き去っていった。