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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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例えばそういう恋の話

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「まったく、飲み過ぎもいいところじゃ。明日も朝議があるじゃろうに」
「いやすいませんねぇ。ついつい盛り上がっちまって」
「酒は百薬の長と言うが、飲み過ぎれば毒になるわい。ほどほどにせい」
「肝に命じときますよ」
 左近に割り当てられた天幕へと左近を連れて行き、水を飲ませたり胸元を緩めたり扇で仰いでやったりと、伏犠の甲斐甲斐しい世話のおかげか左近の意識も大分戻ってきていた。
 今左近は伏犠の胡座の腿を硬い枕替わりにして床に仰向けに横たわり、伏犠の手にした扇から送られる風が心地良いと一息ついているところで。
「…にしてももっと気の利いた枕とかないんです?固いんですよねえこれ」
「我儘な男じゃのう。まずはこれで我慢せい」
「こういうのはもっとこう柔らかくないと気分でないで…しょ…?」
 さっきまでは柔らかい女子の体を触り放題だったのにと思いを馳せた左近の脳裏にふと郭嘉の言葉が蘇る。
 軍略家としての自分と軍略家でない自分。
 その境界線があるなど今の今まで考えたこともなかったが。
 この仙人はが欲しがっているのは、一体どちらなのだろう。
「…伏犠さん」
 左近は思い立って腿の上から視線をあげ、その仙人の名を呼んでみる。
「何じゃ?」
「………俺が明日っから軍略家やめますっていったらあんた、どうします?」
「ふむ?…そうじゃな。そりゃあ、嬉しいのう」
 伏犠は顎に指を当てて髭を弄びながら、その状況を想像しただけで楽しげな笑みを浮かべ。
「お主が軍略家をやめるのなら、人界でのしがらみもなくなるじゃろう?ならばわしも心置きなくお主を連れていけるというものよ」
「ハハッ。軍略家じゃない俺なんぞ連れてったって何の役にも立たんでしょうに」
「軍略家であろうがなかろうが、お主のその魂は何も変りはせんわい」
 左近の胸の奥で何かがごとりと音を立てる。

 これは何だ。恋か。それとも同情か。
 この男の言葉は本気なのか冗談なのか。
 …ああそうか。わからなければ、聞けばいい。

 左近は伏犠の膝からむくりと起き上がると、伏犠の肩へと手を置き、その胡座を跨いで腰を下ろす。
 至近距離から伏犠の両肩へと両腕を乗せてしなだれかかるように身を寄せて。
 驚いたのは伏犠の方。思わずその腰へと腕を回したものの、珍しく左近から縮めてくる距離に緩く首を傾げ。
「おお、どうした」
 向けられるその空色の眸を覗き込み、左近は薄っすらと笑みを見せて。
「…ねえ、伏犠さん。俺は石田三成の軍略家、島左近です」
「ふむ」
 唐突に語りだす左近に疑問の表情を浮かべながら、伏犠は頷くばかり。
「俺の全身全霊、この頭ん中からこの命まで全部殿のもんだ。あんたにあげられるもんは、何一つ持っちゃいない」
 片腕を上げ、左近は自分の人差し指で自分の頭、胸をそれぞれ指し示して言う。伏犠はわかっている、と頷きを返すが、言葉には渋々といった響きが滲む。
「…そうじゃな。それは惜しいが、致し方あるまい?」
「だから、伏犠さん」
 その声に甘えるような響きが乗る。
「あんたのこれ、俺にくれませんか?」
 とん、と伏犠の胸元に指を付きつけて左近は笑い。
「俺が死ぬまで。…いや、この世界にいる間だけでいい。あんたの心、俺にくださいよ」

 冗談ならば人の子のこのようなふざけた願いなど聞く義理はあるまい。
 本気だったならば。
 …どうしましょうかね。

 笑顔でありながら左近の眸は伏犠の眸にじっと探りを入れている。
 伏犠はその言葉とその眸に、ただ、目を奪われていた。
「…こりゃあ、驚いたわい」
「駄目ですかい?」
 ようやく搾り出した言葉に、左近の眸からは探るような色は消え、突きつけていた指も下ろしかけて。
「…いいや?お主にならば、良かろう」
 下ろされかけた手を伏犠の手が掬い上げ、鎧の胸元へと引き寄せる。
「好きなだけ持って行くが良いわ」
「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく」
 左近はにっこりと笑い伏犠の胸元に掌を付いて身を寄せて、そのまま伏犠の唇へと口付けをする。
 するりと舌を差し入れてくる熱を帯びた口付けを楽しんでおきながら、伏犠は一旦唇を離して待て待て、と左近を制止して。
「…左近。お主からの誘いは嬉しいがのう…」
「いいじゃないですか。ちょいとノッてきたんで、付き合ってくださいよ」
「朝になってお主がつらいだけじゃぞ?」
「じゃああんたが起こしてくれりゃいい」
 さらりと言って制止する伏犠の手の指へと自分の指を絡めて捕らえ、これで邪魔はできまいとばかりに再び顔を寄せる左近に伏犠は呆れた顔を見せる。
「…困ったやつめ」
「お好きでしょうに」
「………敵わんのう」
 伏犠は言葉にする割には全く困った様子はなくむしろ嬉しげに笑っており。
 繋いだ手を逆に引いて左近の体を引き寄せて、伏犠からも契約の成立を告げるよう、唇を重ねていた。