Stigmata
初めて触れたシオンの肌は、寝室の淡い蝋燭の光にも白く滑らかだった。
女のように柔らかく華奢ではないが、しなやかな筋肉に覆われた体が馴れぬ快感におののく様は、むしろ童虎の征服欲を掻き立てた。
「……童虎、そこは……や、ああっ……」
首筋の傷痕は、そこだけ特に感覚が鋭敏なのだろうか。
舌でなぞるように触れただけで、すすり泣くような声が上がった。
耐え切れぬように身を捩るたび、紅く刻まれた傷痕は更にその色を増す。
戦士であるシオンの体には他にも新旧様々な傷があったが、童虎はその一つ一つを確かめるように触れていった。
「……あ……やめ……童、虎……」
「綺麗じゃ、シオン」
端正な美貌が快楽に蕩けていくのを、童虎は陶然と見下ろした。
腕の中にいるのは、誇り高く毅然とした「牡羊座の黄金聖闘士」ではない。
自分だけが知っているシオンだ──
「お前がこの傷痕を、一生背負って行くと言うのなら──」
「…………」
「せめてその重荷の半分、わしにも負わせて欲しい」
「……童虎……」
「駄目か?」
シオンは腕を伸ばすと、童虎の背を抱き締めた。
「ならば、お前の……天秤座の重荷も、半分私に……」
「ああ」
この先どんな運命が自分達を待ち受けていようとも、二人で在れば越えてゆける──そう思った。
誰かの体温を感じながら眠るのは、いつ以来だろう。
傍らで穏やかな寝息を立てているシオンの温もりが慈雨のように胸に沁みてきて、ああ、そうか──と童虎は思う。
決して渇くな、と己を諭した師である龍の言葉。
どれほど拳の強さを極めようとも、人を愛しいと想う気持ちなくば虚しいだけだ、という意味だったのだ、と今なら良く判る。
ならば自分も、聖痕を背負うシオンがその重荷に倒れぬように、渇かぬように、注ぎ続けよう。
廬山の大滝の如く尽きぬ想いを、互いの命がある限り──
「……そう言えば、面白いものを拾うたぞ」
半ば眠りに引き込まれながらも、童虎は夢うつつに、眠るシオンに語り掛けた。
「任務の帰りにな、イタリアの小さな村で見つけた。活きの良い仔馬じゃ……」
明日の朝目が覚めたら、お前にも会わせよう。
きっとお前も気に入る──
この出逢いが新たな神話の幕開けであることを、今はまだ誰も知らない。
FIN
Stigmata/烙印 or 聖痕
2012/3/12 up