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こらぼでほすと うまうま

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小さな身体というのは、不自由だ。言葉も、うまく喋れないし行動も制限されてしまう。それに、魔女に捕まって、おかしな格好にもされてしまう。いろいろとあって、二度と、この身体は使わない、と、決めたのだが、だが、ちょっといいかもしれない、と、思うこともある。

 脇部屋にいる時は、ポクポクという木魚の音で目が覚める。朝の勤行なるものがあって、それを、ここの坊主がやるからだ。もそもそと起きると、となりの布団にはフェルトがいる。こちらも、あふっとアクビして起き出した。俺は、ニールの布団で一緒に寝ているが、ニールは、すでにいない。

 もっと早くに起き出して、朝の仕度をしているからだ。



 俺には、小さい頃の記憶はない。だから、こばんを食べさせてもらったり、だっこされたりなんていう記憶もない。知識として、子供の養育というのは知っているが、それが、なんだか嬉しいものだと、今回で気付いた。アレルヤも、そうだが、ニールも、まるで、本当に小さな子供のように、俺の世話をしてくれるからだ。

「はい、もうひとくち。・・・・うん、おりこうさん。」

「おい。」

「はい。」

 三蔵の味噌汁のお代わりを、素早くよそうと返している。フェルトのほうにも声をかけて、お代わりを促すのも忘れない。

「ママ、マンションのカードを持っていきなよ? 」

「ああ、そうだな。避難できる場所があるほうが安全だもんな。」

「違うよ、ニール。お昼寝しないとダメだからだよ。ねぇ? 悟空。」

「フェルト、正解っっ。この暑さだからさ、休憩しないとダウンするぜ? 」

「いや、ティエリアの行きたいところが、どこなのかにもよるだろ? てか、あそこ、刹那たちが居るのに、行きたくねぇーぞ? 悟空。」

 今日は、これから、俺とデートしてもらう。朝から夜まで外出ということになるから、どこかで休憩させる必要もある。フェルトは外出時間を短く搾っていたし、刹那は、クルマの移動中を、それに充てていた。問題は、俺の場合だ。時間を短くするのは、イヤだったが、移動が自転車だから休憩させられない。

「大丈夫、刹那たちも、そこいらはわかってるって。俺、言っておいたからさ。・・・・まあ、用心のために戻る前に連絡すればいいじゃん。」

 昨夜から、刹那は、あほライルを連れて、マンションに戻っている。まあ、その、やることをやっているわけだが、俺にも、マンションへ午後から立ち寄って休ませろ、とは言っていたから問題はないだろう。

「にーるぅー、まんしょんでひるねにゃ? 」

「じゃあ、どこへ行く予定なんだ? ティエリア。」

「マンションのほうのすーぱー。おりぃのたびたいもにょをつくってもりゃう。」

 いつもの身体なら、刹那のようにクルマを借り出して、ぶらぶらできるが、この身体では、それは無理だ。だから、午後までに買い物をして、それをマンションで食べるという予定にした。それから昼寝して、夕食は、どこかで外食して帰って来るというなら無理はないだろうという算段だ。

「リクエストは? 」

「まだ、おしぇーにゃい。」

 ここで言うと、悟空もフェルトも押しかけてくる可能性がある。だから、教えない。一度食べておいしかったから、今度は、ニールの手作りで食べたいと思っていたのだ。



 昨日、刹那が調達してきた自転車は、ちゃんと前輪の上に子供が座れる座席があるものだった。そこへ俺を座らせて、ちゃんと帽子まで被せてくれたニールは、サングラスだけという軽装だ。

「にぃーりゅー、ぼうしにゃ? 」

 クスリは、フェルトから渡されて、俺の肩からかけている小さなかばんに入っているが、それ以外には、何も持っていないのだ。

「帽子? いらないだろ? 」

「だみぃにやっっ。ふぇりゆとぉーーーーっっ。」

 大声で、フェルトを呼んだら、悟空のほうが先に出てきた。俺が、「帽子。帽子。」 と、連呼すると、すぐ、取って返して、ニールのための大きな麦藁帽子を持って来てくれた。

「無理なら、マンションにママチャリは置いてくればいいぜ。」

「電動らしいから、なんとかなるさ。家のほう、よろしく。フェルト、悟空。」

「大丈夫、ニールの代わりに、三蔵さんの手伝いしておくね。」

 留守番のふたりに見送られて、自転車で寺から走り出した。電動だから、ペダルが軽くて、びっくりだ、と、ニールは教えてくれた。



 マンションまで、そう遠い距離ではない。クルマでも10分程度だから、大した負担にはならないだろう。そこから、スーパーも近い。大通りを、さくさくと走り抜けていくのは、ティエリアにも楽しい光景だ。

「大丈夫か? ティエリア。」

「たのしい。」

「そっか。俺も、自転車なんて20年ぶりくらいだよ。」

 それほどスピードを出しているわけではないので、のんびりと会話をしながら走っている。まだ、朝だから、それほど暑いということもなく、爽やかな陽気だ。

 20分ほどで、スーパーに辿り着くと、そこからは、だっこされた。とはいえ、ちょっと休憩させたほうがいいだろう、と、水分補給を提案する。

 スーパーも開店して、すぐだから混んでいないので、屋上へと昇ってみた。そこには、子供のための遊び場があって、さすがに平日だから、子供の姿はない。

「ありぃは、にゃんだ? 」

 大きな風船のようなものがある。どれどれと、ニールは足を向けて説明板を読んだ。子供の遊び場であるらしい。これに、俺が入れば、しばらくニールは休憩できる、と、判断して、「やりたい。」 と、ねだった。

「はいはい・・・・すいません、ひとり、お願いします。」

 そこの係員に声をかけて、チケットを買ってくれた。時間は、10分だという。ここから入ってね、と、係員に案内されて中へ入ったら、中には、ふわふわしたボールが大量に転がっていて、床もふわふわだった。入った瞬間に、足元が、ぐにゃりとへこんで、ひっくり返った。

「にゃーーー?」

 そして、大量のボールが、横から押し寄せてくる。わたわたと態勢を立て直そうとして、また、ひっくり返った。外から、ニールが見て慌てているが、大人は入れません、と、係員に注意されている。

・・・・・重力が憎いっっ・・・・・

 宇宙空間なら、こんなことはない。ふわりと浮き上がって態勢を立て直すのなんて、簡単だ。だが、重力があるから、うまく立てない。何度か、ひっくり返って、立ち上がるコツというものを会得した。

「ティエリア、そこ、飛び上がって遊んだり、そのボールの中で泳いだりして遊ぶらしいぞ? 」

「わきゃった。あにゃたは、ひきゃげにいてくらしゃい。」

 外から、ニールが見ているので、そう叫んだら、はいはいと手を振っている。そこは、炎天下だから、日陰に移動しろ、と、もう一度、注意したら、日陰で見えるところに、ようやく移動した。とりあえず、出口付近に移動しておこうとしたが、これが、なかなか難しい。たかだか、幼児の玩具に翻弄されるとは、我ながら情けない。ぴょんぴょんと跳ねて、出口まで移動したが、また、ひっくり返った。そして、ボールに埋もれる。

「おーい、生きてるか? 」

「うるしゃい。」

「延長するか? 」
作品名:こらぼでほすと うまうま 作家名:篠義