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こらぼでほすと プール1

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ちょっと足りないものがあって、近くのスーパーまで出かけた。急ぐこともないし、ひとりだったから、ぶらぶらと公園を横切って大通りに出た。そこで、背後から、肩を叩かれた。

「ジーンワン、無視するなんて、ひどいじゃないか。いくら、元カレだとしても、そんな拒絶をされる覚えは、俺にはないぞ。」

・・・・・はい?・・・・・・

 見たこともない男で、とても親しげに語りかけてくるわけだが、覚えがない。誰だろう? と、しげしげと眺めていたら、「ライルじゃないのか? 」 と、尋ねられて、ようやく合点がいった。弟の知り合いだったらしい。

・・・・いや、待てよ? 元カレって、言わなかったか? こいつ・・・・

「俺は、ライルじゃないんだが? あんたは、ライルの知り合いか? 」

「・・・・ということは、お兄さんですね? 初めまして、クラウス・グラードです。弟さんの知り合いです。こちらに、弟さんも来ていると思うのですが・・・? 」

 元カレを呼ぶか? と、呆れつつも、寺にいることは告げた。場所のほうが、今ひとつわからないと言うので、買い物する間、少し待ってもらうことにして、最寄のカフェへ案内した。

「本当に、そっくりですね? 」

「姿形はさ。あんたは、わざわざ、うちの弟に呼ばれたのかい? 」

「いえ、国際会議で、こちらに出向いたので、顔だけでも合わせたいと連絡したんです。・・・・・私の素性は、お聞きですか? 」

 大変、礼儀正しい人で、カフェまでの道すがら、反政府組織カタロンの中東支部の人間であることと、弟が、そこのエージェントをやっていことなど、教えて貰った。ある程度、ニールも実弟の情報は掴んでいたが、交友関係までは知らなかった。

「元々、学生時代からの付き合いなんですよ。」

 そして、元カレとは大学時代から付き合っていたらしい。そんな頃から、道を、いろいろと踏み外していたのかと思うと、なんだか悲しい気分になる。まともな人生を歩いてくれ、とばかり願っていたからだ。

 カフェの前へ辿り着いて、ここで、少し待ってくれるように頼んで、スーパーへ向かった。まあ、人間としては、よくできてるんだろうけど、どういう経緯で、男に走るんだろう? とか、考えてしまった。




 ダーリンが、せっせとプラモデル製作に熱中しているので、俺はすることがない。フェルトとティエリアは、歌姫が帰って来たので、本宅に、そのまま拉致されているので、寺も、静かなものだ。兄が、昼寝していた布団が、そのままなので、そこへ寝転んでいる。これだけ、のんびりと生活するのは、本当に久しぶりだ。

 ふぁーっとアクビしたら、くすっと、ダーリンの笑う声が聞こえた。

「なんだよ? 」

「おまえは可愛いと思っただけだ。」

「うっせぇー。」

 うだうだと、そんなやりとりをしていたら、ガラリと廊下側の障子が開いた。見たこともない男が仁王立ちで、腕に、真っ赤なバラの花束なんかを抱えている。

「少年っっ、いや、青年っっ。久しぶりだ。・・・・・おや、お義母様は、また、具合が悪いのか? どうだろう? 刹那。お義母様には、この際、ゆっくり療養される場所を、私がご用意さしあげてるというのは? そうすれば、きみも私の許で、ゆっくりと愛を語れるだろう。」

・・・・・・・ はい? なに? これ?・・・・・・・

 ライルは、生モノの変態ストーカーと対面したのは、初めてだし、言ってることが、九割方意味不明で、よくわからない。ライルの旦那は、たはぁーと息を吐いてプラモデルを、さくさくと片付けて立ち上がった。

「これは、俺の嫁だ。おまえに、どうこうされる謂れはない。」

 ・・・・いやーん、刹那、いきなりカミングアウト? おっとこまえー・・・・・

「何っっ? 刹那、きみは、お義母様を、伴侶に迎えたのか?  なんということだ。それは、近親相姦と言って、犬畜生にも劣る行いだ。やめたまえっっ。きみは、私の天使だ。運命の恋人よ。」

「これは、おかんじゃない。・・・・・くっっ、あの時、情けをかけなければよかった。」

 珍しく、刹那が後悔するような言葉を吐いた。戦いの間、この変態ストーカーには、度々、迷惑をこうむったが、まあ、殺すことはないだろうと、放置したのだ。

「刹那、これ、誰? 」

「お義母様、それはあまりにも失礼だ。私は、グラハム・エーカー。刹那の運命の恋人にして、最後の男だ。・・・・さあ、刹那、このバラを受け取りたまえ。きみの美しさを惹き立てる。」

 差し出されたバラを無視して、刹那は、ライルに事情を説明することにした。アロウズのスサノオは、対面しているから、そちらは、ライルも知っている。普通なら敵機の名称まではわからないものだが、そこいらは、キラからばっちりと情報が常時送られていた。

「アロウズの腐れ変態だ。マスラオとかスサノオで、ずっとストーカーしていたヤツといえば、わかるだろ? 」

「ああ、あのしつこいやつか。」

 そちらで言われれば、ライルも分かる。確かに、まったく戦略とか戦術を無視して襲いかかってきた至極、迷惑でKYな敵だった。しかし、敵が、なぜ、ダーリンに愛を語るわけ? と、首を傾げる。

「そこのKYな変態さん、うちのダーリンを口説くのは感心しないな。刹那は、俺と結婚したってーのっっ。あんたなんか、お呼びじゃないぜ。」

 人の旦那に、何を横恋慕しやがるんだ、と、ライルも立ち上がる。戦場なら、まだしも、ここまで押しかけてくる段階で、いろいろとダメというものだ。

「ふむ、お義母様は、私のことを、お忘れとみえるな。」

「俺は、刹那のおかんじゃねぇーよ。女房だって、いってんだろーがっっ。」

「ライル、こいつは手強いぞ。気をつけろ。」

 ぎゃーぎゃーと喚いている嫁に注意をして、刹那のほうも間合いを空ける。四年前より、自分も成長している。簡単に襲われるつもりはない。それに、今は、ニールがいないから、帰って来るまでに排除しておこうと考えた。

「相変わらず、抵抗するか? 」

「当たり前だ。俺は、結婚もしたし、あんたの愛を囁かれて聞いてやる義務もない。」

「よかろう。では、力ずくで、きみのハートを射止めようではないか。」

「やれるものならやってみろ。」

 境内へ飛び降りた刹那に、変態ストーカーも追い駆ける。ここんところ、体術の訓練を怠っていたから、いい運動だと、刹那は余裕だ。四年前とは違う。なにせ、その四年間で、刹那は悟空に稽古をつけてもらっていたし、世界放浪の旅の合間にも鍛錬していた。体力的に負けているということはなくなった。

「刹那、わが愛を受け止めろっっ。」

「おまえを駆逐するっっ。」

 飛び込んできた変態をかわして、後ろ手で裏拳を叩きこむが、相手も腐っても軍人だ。この程度では退いてくれない。

「何やってんだよっっ、げっっ。」

 山門のほうから、大声がした。そこには、そのおかんが、誰かと一緒に立っていた。そちらに、戦っている二人も視線を流した。

「なぜだっっ、なぜ、お義母様が、ふたりいるのだ? 分裂したのか? 」
作品名:こらぼでほすと プール1 作家名:篠義