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こらぼでほすと プール2

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『吉祥富貴』に勤めている人間の朝は、一般の勤め人よりは遅い。午後前が起床時間というのが普通だが、本日は、そうも言っていられない。特区の外れにある遊園地にある屋外プールを借り切った、『吉祥富貴』の慰労会という名のレクリエーションがあるからだ。各人、現地集合だから、厳密な集合時間というものはないものの、それでも食事は、こちらで、と、オーナーから指示が入っているから、それまでには遅くとも辿り着けと暗に言われているのは、理解できている。

 寝室の厚いカーテンをチロリと捲ると、朝から夏らしい日光が注いでいる。これなら、中止はない。

「悟浄、そろそろ起きてください。」

 あふっと欠伸しつつ、そう声をかけて部屋を出る。とりあえず、朝食の支度をすることにした。男二人とはいえ、栄養バランスは考えているから、温野菜のサラダとチーズオムレツに、ロールパンなんていう陣容だ。これに、ミルクとか紅茶なんかがついている。

 さくさくと用意して、まだ起き出して来ない宿六を叩き起こすために、寝室へ入ってカーテンを開ける。燦燦と降り注ぐ日光は、さらに激しくなっている。吸血鬼なら一瞬で灰になるだろう眩しさだが、生憎とここのカッパは頭上の皿を干上がらせる様子もない。

「悟浄。」

「・・・・・ハートブレイクなので、拗ねてるから起こさないでください・・・・」

 布団に潜り込んでいるので、くぐもった声が聞こえる。そこまで、明瞭に喋れるなら起きている証拠だ。ぐいぐいと布団を引っ張ったら、抵抗される。

「何のハートブレイクなんですか? 」

「俺の気持ちを疑う悪い女王様がいらっしゃったので、ハートブレイクしてんの。・・・・この俺のブリキのハートが、中からゼンマイ飛び出てじゃじゃじゃじゃーんなんですよ。」

「あーはいはい、浮気容認の件ですか。別に、遊びたければ遊んでいらっしゃい、と、申し上げただけでしたよね? 」

 昨晩、店での与太話で、そんなことを言った。八戒としては、本当に、それでいいと言ったのだが、どうやら機嫌を損ねたらしい。元々、宿六は、ヒモとかジゴロをしていたほどの女たらしで、その技術の水準は高い。だから、一夜限りのお相手なんてものを釣り上げて料理するのは、訳も造作もないことだ。

 そういう遊びをするぐらいで、八戒は怒ったりしない。男だから、そういう気分の時もあるんだろうなと考えていた。いやまあ、実際、容認した時、その場で胸にもやもやしたものは感じたが、大したことじゃないと抑え込んだけれど。

「・・・・シクシクシクシク・・・まだ、言いますか? イノブタ女王様・・・・・」

「泣き真似が可愛くないですよ? 」

「女王様が浮気したら、俺は相手の女でも男でも殺しますんで、ひとつ、よろしく。」

「なんの脅しですか? それは。僕は、そんな予定も心算もありません。」

「できたら、俺の浮気相手も殺してください。」

「それ、なんかやったっていう懺悔なんですか? 悟浄。」

 ぴくっとこめかみが動いた。もしかして、浮気しているのか、と、疑ったのだ。どっかの新婚いちゃいちゃカップルみたいに、常時一緒なんてことはないから、フリーの時間というのは、どちらにもある。その時間で何かしていても、八戒には判らない。

「悟浄? 殺しませんから正直に吐いちゃってください。」

「俺の浮気は容認? 」

「・・・・・しょうがないでしょう? 僕には豊かな胸とか柔らかいお尻なんてないんですから、そういうのが欲しいと思われたら、どこかで探してもらうしかありません。」

「・・・俺・・・別に、おっぱい星人でも、お尻大好きっ子でもないんですが? 」

 いや、お尻は好きか、と、呟いて、悟浄が布団を撥ね退けた。そこに現れるのは、ちょっと怒ったような、それでいて不安そうな表情の女房で、途端に嬉しくなってくるのを止められない。なんだかんだと聞き分けのよいフリはするが、自分の女房は、浮気厳禁だと思っているし、その相手にも嫉妬している。

・・・・なんで素直に、「するな。」 って言わないかねぇー、うちのカミさんは・・・・

 もちろん、悟浄も浮気なんてされたら、相手は100パーセント葬るし、女房も監禁する。しばらくは、浮気する気も起きないぐらいに抱き潰してしまうだろう。

「それで? 」

「ああいうとこで、ああいうことを言われると傷つくんだよ。」

「神経がザイル並みのくせして、何を言うんだか。」

「俺さ、おまえと暮らしてから一回も、外でやってません。おまえだって、そうだろ? あほライルや鷹さんみたいなことは、できない性格なんだよ、俺らはな。だから、簡単に容認なんかしないでくれ。」

 八戒の言葉に、ちょっとカチンときた。だから、昨日は何もしなかった。そんなことがわからないほど浅い付き合いじゃないのだ。ああいう時は、全力で却下してくれ、と、悟浄は言いたい。

「・・・・ですが・・・・」

「女王様、そこで、その顔は悲しいんだけど? 」

「僕としては、そこまで悟浄の自由を奪う権利はないと思うんです。」

「はあ? 何言うんだ? 八戒。おまえには、俺に関する権利は全部あるだろ? 女房が、それを持ってなくて、誰が持ってるって? 俺も、おまえに関する権利は全部持ってるぞ。おまえの権利なんて、俺が容認してっから自由に見えるだけだ。」

 だから、おまえも、俺に自分の許せる範囲の自由を与えればいいんだよ、と、言い置いて立ち上がる。

「じゃあ、浮気は否認です。」

「はいよ。」

「僕は浮気はしません。」

「わかってるよ。」

「朝食が冷めるので、さっさと食べてください。」

「へーへー、女王様の仰せのままに。」

 うはははは・・・と大笑いしつつ悟浄は食卓につく。そこには、少し冷めた朝食があって、さらにマグカップに入った紅茶が置かれる。

・・・・こんだけ世話好きの女房がいて、わざわざ、余所で遊ぶかよ・・・・

 何年も続いているこの光景が崩れるような真似をするつもりはない。相手を選んで一緒に暮らした時点で、どちらも、そう思っている。それなのに、たまに不安になるらしく、女房は、とんでもないことを言う。

「信用ないかね? 」

「ありません。」

「ご奉仕が足りないですか? 女王様。」

「足りないんじゃないですか。」

「あら、それは失礼いたしました。じゃあ、アスランのように努力させてもらうわ。」

「あれはやめてください。窒息しそうです。」

「ですよねぇー。俺、あれは無理。」

 新婚じゃないので、密着度100パーセントは、どちらも辛い。沙・猪家では、ほどよい距離で暮らしているのが、家庭円満のコツだ。

「プールで騒いで、夜に店やるっていうけどさ。年少組が、屍になってんじゃないか? 」

「それは大丈夫です。今日のお客様は、マリューさんですからね。プールにも参加されるから、ただの宴会だと思いますよ。」

「それならいいや。・・・・・久しぶりだなあ、プール。超絶ビキニとかいいかな? 」

「はあ? 身内ばかりのところで、そんな勝負パンツみたいなの必要ないでしょう。」

「いや、俺じゃなくて、おまえ。」

「・・・・・イヤですよ・・・・」
作品名:こらぼでほすと プール2 作家名:篠義