こらぼでほすと プール2
「たまに、悩殺してやりゃいいんじゃね? 」
「誰を? 」
「うちの身内のみなさん。ここんとこ、ママに色気で負けてるからな。」
ニールが居着いてから、『吉祥富貴』の母親役としての仕事は激減した。相変わらず、ママの地位は、八戒のものだが、年少組の世話に関しては、ほとんどニールが担当しているからだ。そして、ここ一年の刹那たちの動向に心痛の多かったニールの表情が憂いを帯びていて、かなり色気を無意識に振りまいていた。当人はノンケだから、気付かないが、その気のあるのは、悩殺されまくっていたのだ。特に、鷹とか鷹とか鷹が。それから年少組の紅辺りだ。「誘われてるとしか思えない。」 という危険なご意見の鷹との接触は、極力避けさせていたほどだ。
「ニールが泣くから、そういうことは言わないであげてください。」
俺はノンケだって言ってるのにぃぃーと、ニールは、常々言っているから、悟浄の意見に落胆しまくるはずだ。
「なんで、あれを有効活用しないかね? てか、三蔵って、ほんと朴念仁だぞ。あれと同居して靡かないんだからな。」
「三蔵もノンケですよ、悟浄。」
「いい夫夫だと思わないか? あそこ。」
「思います。トダカさんがおっしゃるには、ああいうのを茶飲み友達夫婦というらしいですよ?」
「たはーっ、枯れてるなあ。」
「五年も暮らしてたら、あんなもんでしょう。同性同士の同居って楽ですからね。」
「惜しいな、どっちかが押し倒したら一発なのに。」
「だから、うちとは違います。」
そういう感情が伴わないから、どっちも楽なのだろう。恋愛感情があったら、あの同居は逆に難しい。
「そうだよなあ。うちは、まだ、小競り合いがあるもんなあ。」
「でも、僕、『実家に帰らせてもらいます』攻撃をするとしたら、実家は、やはり三蔵のところってことになるんですかね? 悟浄。」
「えーーーそれは勘弁してくれ。トダカさんとこにしてくれよ。あそこなら、俺、玄関で土下座とかできるけど、三蔵にすんのはイヤだぞ。」
「じゃあ、僕もニールと里が一緒ってことですね。今度、トダカさんにお願いしておかないと。」
「八戒、冗談でもやめて。」
「はははは・・・・例えばって話じゃないですか。」
どちらも本気ではないので、顔は笑っている。お里に帰るなんて事態は起こらないからだ。たかだか、「浮気容認発言」ごときで、拗ねたり嫉妬したりしているいちゃこら夫夫に、そんなものは有り得ない。
「本当に行かないの? 」 と、卓袱台で優雅に新聞を読んでいる坊主に、フェルトが尋ねる。以前、みんなでプールに行った時は、三蔵も同行して一緒に、ウォータースライダーに乗ってくれたりしたからだ。
「今日は行かねぇーから、おまえが、ママをちゃんとフォローしてやれよ? それから、家に戻ったら、さっさと布団に叩き込め。いいな? フェルト。」
「うん。」
せっかくなら、みんなで、と、思っていたフェルトとしては残念そうだが、さすがに強引に誘うようなことはできない。それに、ニールからも、「三蔵さんは行かないよ。」 とは言われていたからだ。
「なあ、どうやって乗る? 」
こちらでは、クルマの人員について、アレルヤとライル、悟空、刹那が相談している。刹那が借りている4WDは大型だが、六人はきつい。小一時間のドライブでぎゅーぎゅー詰めは無理がある。
「うちのクルマも出して、ライルが運転すればいいじゃん。」
「えーダーリンとバラバラ? そりゃないぜ、悟空。」
アレルヤも免許はあるが、なんせ四年間幽閉されて、いきなり実戦に突入したから、長いことクルマなんてものは運転していない。となると、運転できるのは刹那とライルということになるのだが、あほっ子は、ダーリンと離れるのは拒否だ。
「けどさ、ママに運転させるわけにもいかないしさ。」
ニールも免許はあるが五年近く運転していないし、一人で運転を禁止されている。刹那に命じてもらえば、従うだろうと、アレルヤが口を開きかけたら、外からハイネが顔を出した。
「アッシーが迎えに来たぞ。」
人数的に無理があるだろうことは、昨晩からわかっていたから、ハイネが自分のクルマでアッシーに出てきた。鷹も来たがっていたが、さすがに、つれあいも参加するので、そちらと出かける為に諦めたらしい。最初は、トダカがダコスタに頼んでいたのだが、そういうのは間男の仕事だから、と、勝手に自薦してきた。トダカとしては、ダコスタとフェルトの接点を増やしたいという意図があったらしいが、ハイネとしては、阻止の方向だ。こんな可愛い子ちゃんを、目の前で掻っ攫われては堪らんというところだ。
「あれ? ダコスタじゃないのか? トダカさんからメール着てたぞ。」
ハイネの姿に、ニールが驚いている。さっき、メールが入って、ダコスタをアッシーに寄越すから、フェルトと一緒に、そちらで来なさいと指示があったからだ。で、もちろん、ダコスタは現れた。
「トダカさんから、やっぱり迎えに行ってくれということでしたので。」
「うん、ありがとう。フェルト、出るから荷物を持っておいで。・・・・・三蔵さん、お昼は冷蔵庫にありますからチンしてください。それから、仕事だから飲みすぎないでくださいね。」
「うぜぇ。さっさと消えろ。」
その程度で、懐に手を伸ばしている坊主は、大人気ないと思う。今日だって、歌姫が居るから行かない、なんて駄々を捏ねたのだ。
「ママ、とりあえず行って。俺らも後を追うからさ。」
「わかった。ティエリア、こっちのほうが空いてるからおいで。」
ティエリアをだっこして、ニールはお先に、と、出かけてしまった。おいおいと、ハイネは残った人員を見回して、がっくりする。
「なんて彩りのないメンバーだよ。」
「移動できればいいってーの。さっさと乗せろよ、ハイネ。」
「じゃあじゃあ、俺とダーリンでドライブ。」
「仕方ない。それでいいか? 悟空。」
ハイネのクルマに五人は無理だ。そうなると、二台に分乗なんてことになる。それを眺めて、ニヤニヤと三蔵は頬を歪めている。どうやら、娘の子供に悪い虫をくっつけないように、トダカが手配したらしい。ダコスタなら合格点というところだろう。
プールは、遊園地に併設した施設だが、本日は休園日なので、どちらも閉鎖されていて、一般人の出入りはない。だから、希望者があれば遊園地の遊具も動かせることはできるのだが、暑い時期だから、そんなことは言わないだろうと、歌姫は考えている。こちらで、数時間遊んで、それから仕事なのだから、そこまでの体力は年少組にもないはずだからだ。
「オーナー、お招きありがとうございます。」
一番乗りをしたのは、クリスとリヒティー夫婦だ。本日は、ホテルのベビーシッターに預けてきた。この炎天下は赤ん坊には毒だと思われたからだ。
「いらっしゃいませ、クリス、リヒティー。まもなく、うちのスタッフも到着すると思いますわ。」
都心部から小一時間の距離にあるから、昼前集合だと、ギリギリなんてことになる。歌姫様のようにヘリ移動なら、十分足らずなのだが、普通はクルマだ。
作品名:こらぼでほすと プール2 作家名:篠義