こらぼでほすと プール2
見ているだけしかできない状況で、組織への猛追や総攻撃の情報は、肝を冷やす内容ばかりだった。だが、手を差し出すことはできなくて、さらに周囲にも心配をかけないように、取り繕っていたニールは、ああいう表情になっていることが多かった。それが、なかなか抜けなくて、今も、そういう顔をしていることが多いのだと、ハイネが説明した。
「心配してくれてたのか・・・・俺のことも? 」
「当たり前だろ。」
「えへっ、嬉しい。」
「そのポジティブな思考を半分分けてやれ。」
「うん、そうする。あの人、真面目なんだよね。」
そんな話をしていると、ウェイターが生ビールの配達に来た。歌姫様が運んでくださったようで、ウェイターがテーブルに、生ビールを置くと、歌姫様も、それを手にしてテーブルについた。
「ハイネ、お話は終わりまして? 」
「ええ、打ち合わせは後日ですが、一応、重要項目は説明しましたよ、オーナー。」
普段は、敬語なんて使わないが、こういう時は、丁寧にオーナーとして仰するのは基本だ。
「楽しんでいただけまして? クラウスさん。」
「ええ、実に楽しいイベントです。お礼の言葉もありません。」
「では、お願いをひとつしたいのですが、よろしいでしょうか? 」
「できることでしたら? 」
『吉祥富貴』側からの提案となれば、公式に何かしらの活動の手助けかと、クラウスは考えたわけだが、実際の依頼は、まったく違っていた。
「実は、11月の終わり頃に、一日だけスケジュールを空けていただきたいのです。私の大切なお友達からの依頼で、その日は店を貸切りでお貸しするのですが、是非、クラウスさんにもホストとして参加していただきたいのです。私の友人から、是非、ライルとクラウスさんを並べて鑑賞したいとの希望が、昨年からございましてね。・・・・・騒動が終結したら、という条件でお受けしているのです。」
「はい? 」
「オーナー? それって例の? あれ? 俺も去年、やらされたやつ? 」
「ええ、ライルは、何度かお会いしてますね? そう、あれです。」
そういや、そんなことを言われた気がする。それに、この間の時も、そう命じられていたような気がする。あれは本気だったんだな、と、ライルはがくりと肩を落とす。あれについては、拒否権は一切ない、と、刹那からもティエリアからも言われている。現に、あのティエリアでさえ、あれには大人しく出ていたからだ。
「いかがでしょう? 別に、ホストと申し上げても、口説くようなことはなさらなくて結構ですから。」
それに、それでカタロンに支障が来たすようなことも起こらないように差配いたしますので、是非、お願いします、と、歌姫に頭を下げられると、クラウスとしても、断りづらい。
「私は不調法ですが、それでもよろしければ。」
「はい、それでは詳しい日程は、後ほどお知らせいたします。その前後に、難しい会議などが入ることはないように調整させていただきますので、クラウスさんも楽しんでくださいませね。」
「ええ。」
「それから、ライル、あなたも、その時期は降りてきてもらいますから、そのつもりでいらしてください。」
「・・・・・はい・・・・・・」
ライルには逆らう術はない。マイスターとしてのミッションとして指示が出てしまったら、イヤなんて言っても強制的に降ろされてしまうのは、身を持って知っている。
「まあ、そんな難しい客じゃないからさ。たぶん、ちょっくらトークすれば済むことだから。」
「あれで、ちょっくらか? ハイネ。」
「ちょっくらだろ? おまえ、ティエリアなんかな、女装とかコスプレとかあるし、今年なんか、アレハレルヤとダンスを披露させられてたんだぞ? 」
「ええええええーーーっっ。」
「それよりはマシだと思え。」
「えーーー俺、蹴られたんだぞ? 」
「あれは関西風ツッコミだ。」
「ええ、あの方は、関西の方なんでダイレクトなだけですわ、ライル。」
そうかぁー? と、ライルは頭を抱えているが、クラウスは、まあ、そういう遊びも体験してもいいかな? と、頷いている。以前の愚痴を聞く限り、ライルがホストらしいことをしていたとは到底、思えないが、それでもそれでよかったらしいからだ。その程度のことで、『吉祥富貴』に在している変わり者たちと交流できるなら、やってみましょう、と、いう気にはなるらしい。
「ライル、先輩として教えてくれるか?」
「あんたってさ、どっか天然だよな。まあ、いいけど。」
「まあ、ありがとうございます。」
ニパッと歌姫は笑って手を叩いている。これで、今年はダブルロックオンでクラウスのおまけ付きというサプライズの準備が出来た。
作品名:こらぼでほすと プール2 作家名:篠義