町内ライダー
ボブカットに、体にぴったりとした黒とシアンの衣装を身に纏った女性は、どうしようもないほど大袈裟に泣き真似をした。
「……だから、一体、何だっていうんだ」
全く、事態が掴めない。士はただぽかんとして、周囲の陽気な人々を見回した。
「ごめんなさいね、番組の企画上、どうしてもここまではやらなきゃいけなかったんです。でも、後から辻褄を合わせるために黒歴史化されますから安心して下さいねっ! 冬の宮殿に封印して、選ばれし者しか目にできなくなりまーす!」
「レディ、そういうメタ発言は慎みたまえ。あとガンダムネタ自重」
レディと呼ばれた、ボブカットの女性の発言は全く意味が分からなかった。海東が窘めると、レディはえへっ、と笑った。
「ディケイド、お前によってディケイドもついに、破壊されてしまったのだ!」
鳴滝が叫ぶ。
「おめでとう! おめでとう!」
仮面ライダー達はまだおめでとうを唱え続けている。
「……そうか、俺はここにいてもいいんだ! ……って、違う!」
「……世界は融合してしまったんだ。九つの世界……いや、十九の世界が」
いつの間にか、黒いタートルネックとレディの横に、鳴滝に似た格好をして、皮のトランクを持った男が立っていた。
「いやだからどういう事なんだそれは……」
「いいんだよ、細けぇ事は!」
士の疑問に誰も答えてくれない。とうとう黒いタートルネックの青年からは、開き直りとも取れる言葉が発せられた。
「ブラックエンジェルス&マーダーライセンス牙なんて購読層を選びまくるネタも自重。あれは松田さんだから許されるんだ」
それにしても海東のツッコミは細かい。というか松田って誰。
「まあとにかく、そういう事なんでよろしくね」
「そういう事ってどういう事だ!」
「じゃあね〜、士」
尚も食い下がる士に、海東は手を振った。
目が覚めると、士はベッドに寝ていた。
「……夢オチ…………か」
見慣れた天井。昨日脱ぎ捨てた服が乱雑に散らばった、光写真館で士に割り当てられた部屋。
嫌な汗をたっぷりとかいていた。寝間着に使っているTシャツの脇がぐっしょりと濡れている。
シャワーでも浴びなきゃならんなこりゃ……。
寝た筈なのにかえってぐったりと疲れた体を起こして引きずり、士はシャワーを浴びた後、朝食を食べる為に台所へと向かった。
ドアを開けると、ユウスケも夏海も栄次郎ももう起きていた。三人は、背景ロールを見ていた。
「……どうした?」
士も背景ロールを見た。絵が変わっていた。
何という事はない、普通の街角がそこには描かれていた。
「……ライダー大戦は、どこへ行ってしまったんだ?」
「……さあ」
ユウスケが、困惑した表情で、肩を竦めて返した。士の疑問に答えられる者など、ここにはいなかった。