町内ライダー
倒れこんだ五代の耳に神代の叫びと電子音声が届いて、次の瞬間、何もない虚空に突然、緑色の炎が大きく上がった。
一体何が起こっているのだろう?
見れば、五代の周囲の緑色の化け物達も、何もしていないのに緑色の炎を上げて燃え尽きていく。
『Clock Over』
また電子音声がして、五代のすぐ前に、最初に見たときよりもスマートになった紫の鎧が唐突に現れた。まるで瞬間移動でも使ったみたいだった。
「大丈夫か、五代」
「ええ……多分、大丈夫、です」
神代の声に質問されて、五代はぼんやりとした声で答えた。
怪物は数を減らして、もう囲まれている、というほどでもない。やや騒がしくなってきたかと思うと、顔面をガスマスクのように覆った黒いプロテクターを着けた男たちと、神代と同系統と思しき真っ青な鎧が、残りの異形を蹴散らしながら駆け込んできた。
「剣!」
「カ・ガーミン、遅いぞ。危うく五代がやられてしまう所だった」
「……五代、ってジャグリングの人か? 何処にいるんだよ」
神代と話すその声は、加賀美新と名乗った青年のものだった。
全く状況が掴めない。
「あの、加賀美さん?」
「えっ……うわあっ! 変わったワームじゃなくて五代さん!?」
「……カ・ガーミンよ。この俺がワームを目の前に放置して、のんびりお前と会話すると思うか?」
五代の姿に加賀美は驚いているようだったが、それはお互い様だ。
ワームならワームで、神代の言う通り、放置してのんびり話し始めるのもそれはそれでどうなのか。
「ワームって一体何なんですか? あなた達は一体?」
「……ええと、すいません。守秘義務があって……教えられないんです。こんな事頼む筋合いじゃないとは思うんですけど、今日の事も内密にしてもらっていいですか……」
申し訳なさそうな声で答えて、加賀美は首をやや傾げた。
もとより言い触らすつもりはない。五代は首を縦に振った。
「ああ……良かった。じゃあ俺、後始末とかあるんで」
「宜しく頼むぞ、我が友よ」
加賀美が小走りに去っていって、神代も変身を解除して歩き去っていった。いつの間にか、ワームとかいうらしい怪物も、あの緑と銀の二人組もいない。
五代も変身を解除して、一つ息を吐いてから立ち上がった。
神代剣について、訳が分からないとは思っていたが、ここまでとは想像していなかった。
気付けば、随分と時間を取られてしまった。今頃、混雑した店でおやっさんが一人でてんてこ舞いになっているかもしれない。
「……帰ろ」
ぐったりとした表情を隠し切れず、ぼそりと独り言を呟いて、五代は脇道へと歩き出した。
こんな事になるのならば、近いからと歩かずに、バイクを使えばよかったと心の底から後悔しながら。