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町内ライダー

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 河童の目撃情報は、事務所近くを流れる川の近辺に集中していた。
 河童なのだから、当然といえば当然だったが、河童に関係があるのかないのか判断のつかない情報もあった。
 烏帽子に着物、裾を絞った袴姿の、室町時代からこんにちはしたような男女も、河童と共によく目撃されていた。奇怪な事に、声は男女逆で、河童に腹が減ったか満腹かを問い掛ける。
「うーん、やっぱりミステリーゾーンの気配ね、あたしの勘は当たる」
「何となく、それはお前の台詞じゃねえって気がするが……まあいいや」
 川沿いに上流へと進むと、徐々に細くなった川は公園内を走り始めた。うっかり支流を選んで進んでしまったのかもしれない。
 なかなか広々とした、清々しい空気に満ちた公園内には遊歩道が続いていて、所々にベンチが設置されている。一面は芝生に覆われていて、まばらに広葉樹が植えられている。遊具の類は見当たらない。ジャージ姿の初老の男が、ジョギングなのか軽快な脚捌きで、後ろから翔太郎と亜樹子を追い越し抜き去っていった。
 何気なく辺りを見回しながら歩くと、昼下りののんびりとした空気を切り裂くように、高く鋭い音が上がった。
 金管楽器の音だった。公園でギターを練習するというのはよく見掛けるが、トランペットやトロンボーンの練習風景というのはなかなか見ない。音の方を見ると、若い男がトランペットと言われてみればそう見えない事もないが何か違和感の拭いきれない金管楽器と推測される楽器を、やや天に向けて構え、旋律を奏でていた。
 何かむず痒いような甘酸っぱいような、不思議な感覚を呼び起こすフォルムをした楽器だった。あれは、そうだ。子供の頃、意味も訳もなくむしょうに欲しがった、電池で動かすおもちゃのトランペットに、似てはいないか。
 音は本格派、玩具とは比較にならない澄んだ音が響く。
 とりあえず今すべき事は情報収集。翔太郎は河童に関する情報がないかを聞き出そうと、彼に向かい歩きだして、亜樹子もそれに続いた。
 近付いてきた翔太郎と亜樹子に気付いて、男は演奏の手を止めて二人に目線を向けた。
「……何か?」
「ああ、邪魔して悪い。一つ聞きたいんだが。この辺で最近、河童を見たって噂があって、俺達はそれを調べてるんだが、何か見たとか聞いたとか、知ってる事はないか?」
「河童……ですか? 君達は?」
 青年は翔太郎に怪しげな目線を向けた。答えようとすると、脇から凄まじい力で亜樹子に押し退けられる。
「探偵、探偵です! 私が所長でこっちは部下です! 決して怪しい者じゃないですから、ほら、ここにあるんです!」
 そう早口に言い切って、携行していたビラを無理矢理青年に渡して持たせる。
 これが漫画なら、亜樹子の目の中には大きくハートマークが浮かんでいるだろう。目の前の青年は品良く優しげで整った風貌、だからといって頼りなさげというわけでもなく、すらりと均整のとれた鍛えられた体付きをしている。男の翔太郎から見ても、(翔太郎の理想とは方向性が逆だが)女性が好みそうな事が頷ける堂々たる美形ぶりだった。王子タイプとでもいうのか、育ちの良さが外見に滲み出ている。
「……照井にバラしてやんぞ」
「なっ、何よ! 竜くんは今関係ないでしょ!」
 ぼそりと呟くと、小声で慌てた反論が返ってくるが、いつものキレはない。
 青年は翔太郎と亜樹子のじゃれ合いには興味を向けず、持たされたチラシを眺めていた。
「バッティングセンターのとこの探偵さんですか。河童探しが依頼なんですか?」
「んっ……ん、まぁな……。何か知ってるか? 和服の変なカップルの事でもいいんだけどよ」
 翔太郎が何気なく口にすると、青年は頬を強張らせ、厳しい顔付きをした。
 何か知っているのは間違いない。だが青年は、首をはっきりと横に振った。
「いえ、聞いたことがありませんね。悪いけど用事があるので。失礼します」
 告げると青年は、翔太郎と亜樹子の返事も待たずに踵を返し、早足に大股で立ち去っていった。
「あーん……名前位聞き出したかったなぁ」
「馬鹿ばっか言ってんな。おい亜樹子、追うぞ」
「……えっ? 何で? 知らないって言ってたじゃない」
「色ボケしすぎなんだよお前は。和服のカップルで顔色変えてたぞ、あいつの顔凝視してたじゃねえか、何見てたんだよ」
 距離は十分開いた。万一見失った時の用心にバットショットを飛び立たせると、翔太郎は青年が歩き去っていった方向に歩き始めた。亜樹子も慌ててその後を追った。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ