二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

町内ライダー

INDEX|64ページ/72ページ|

次のページ前のページ
 

「……で、彼が入っていったのが、甘味処たちばな、っていう店かい」
「そうだよ。きびだんごが人気なの。あと、普通ああいう店って女性客中心の筈なのに、やたら逞しい男の人が何人も入ってく事でも有名なんだよね……餡蜜とかお汁粉とか、結び付かないよねぇ」
 戻ってきた翔太郎と亜樹子の報告を聞いて、フィリップは首を捻り考え込んだ。河童、甘味処、筋骨隆々の男たち。ちぐはぐで、まるで結び付かない。
「顔色変えた事といい、怪しい甘味処といい、あいつ怪しいな」
「何バカな事言ってんのよ、滅茶苦茶いい人そうだったじゃない!」
「顔で何かする訳じゃねえだろ、外見に惑わされるのもここまでくりゃ天晴れだな」
 ミーハー精神は自覚があるのだろう。亜樹子は言葉を詰まらせてそっぽを向いた。
 顎に左手を当て俯いて黙考していたフィリップが、軽く顔を上げる。
「翔太郎、甘味処たちばなについて他に何かないのかい」
「言うと思ってたぜ相棒。老舗だが、当主ってのが、来歴がまるで分からない、謎の人物なんだよ。温和で評判はいいが、店を始める前の事がいくら調べても分からねえ。あの店、何もかもが怪しすぎる」
「よし、検索してみよう。河童の居場所を検索で掴むのは無理だが、その店に本当に何かあるなら、河童の尻尾を掴めるかもしれないしね」
 言うとフィリップは、立ち上がって腕を広げ、やや俯いて瞼を閉じた。
「さあ、検索を始めよう。キーワードは?」
「甘味処たちばな、男性客、妖怪……ってとこか?」
 沈黙が流れ、ややあって、俯いて目を閉じたままのフィリップがおもむろに口を開き始める。
「……キーワードが抽象的すぎる、絞り切れないな。他に何か、気になったキーワードは?」
「うーん……あと気になったのは……。そうだな、公園で会った優男は、変なトランペットを吹いてた」
「変な?」
「何か玩具っぽい寸詰まりの形してんだけどよ、いい音出してんだよ。ハードボイルドにはトランペットとサックスは欠かせないからな」
「どこの世界のハードボイルドよ、それ」
 亜樹子が鋭くツッこむが、翔太郎には軽くスルーされる。目を閉じたままのフィリップは、ふむ、と軽く唸った。
「キーワードを追加、楽器……驚いたな、絞れた」
 呟いて何度か頷いてから、フィリップは目を開いて頭を上げた。
「残念だが、君の予想は外れていたようだよ、翔太郎」
「何?」
「あの店に出入りする男性客は、|猛士《たけし》というNPO法人のメンバー、たちばなの店主は関東支部長だ。よって、あの店に男性客が多い事自体は怪しくはない。だが、その、猛士という団体の方が変わってる。実に興味深い」
 説明しながらフィリップは楽しそうに笑んで、一人で納得して何度も頷いた。いつもの事とはいえ、じれったい。
「何がそんなに変わってるってんだ?」
「猛士は、表向きはアウトドア活動を支援する団体だが、実態は、妖怪と戦う組織のようなんだ」
「……は?」
 妖怪と戦う組織。漫画やアニメの設定ではあるまいし。
 反応に困って、翔太郎はぽかんと開いた口を閉じられないまま、わくわくとした表情で一人納得し頷くフィリップをまじまじと見つめた。
 妖怪ですら実在が怪しいのに、その妖怪と戦う組織の実在を信じられる筈もない。翔太郎の中ではまだ両者は、非実在妖怪と非実在組織だ。
「仮面ライダーも変わってるが、組織を結成して妖怪退治なんてそれ以上だよ! 残念ながら今の検索では概要しか分からなかったが、猛士に所属した戦士は、各々得意とする楽器を武器にして妖怪と戦うというんだ、エキサイティングじゃないか!」
「いや……俺は正直、着いていけてない」
 一人顔を輝かせるフィリップに置いていかれ、ぐったりと押し寄せた疲労にやや負けて、翔太郎は深く息を吐いた。この相棒が検索し探り当てたからには、事実には違いあるまい。
 妖怪も、それと戦う組織も、残念ながら実在しているのだ。
 仮面ライダーやガイアメモリにドーパント、風都の荒唐無稽さに敵うものはあるまいと思っていたが、世の中上には上が存在するようだった。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ