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町内ライダー

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「へえー、そんな事があったんですか。どれ位似てるんでしょうね? ちょっと見てみたいかも」
 午後三時過ぎ、北條透はレストランアギトで遅い昼食を摂っていた。普段行く高級レストランが臨時休業のため、已む無い措置だった。
 今は北條の他は客は二組、常連の様子で店主と親しく言葉を交わしていた。店主は顔見知りの気安さで、自身の昼食を北條のテーブルに持ち込んで向かいに腰掛け食べていた。
「まあ、私のように優れた人間にそっくりであれば、当然優秀でしょうが……あまり気味のいい話ではありませんね」
「えっ、面白いじゃないですか。実は生き別れの双子の弟が……とかって言ったら、きっと氷川さんあたりすごく驚いてくれますよ」
「私は君と違って、彼をからかって楽しむ趣味はありません」
「やだなあ、そんなの俺だってありませんって、はははは」
 明らかに氷川で遊んでいる節のある翔一は、自覚があるのかないのか、からりと笑う。北條にとってはどちらでもいい事だった。
 食事を終えナプキンで口元を拭っていると、入口ドアが開く音がした。いらっしゃいませ、とこの店で働く岡村可奈の声がする。が。
「えっ……えっ、あの……」
 可奈の声は明らかに戸惑っていた。何事かと翔一が怪訝そうな顔で首を伸ばして入り口の方を覗き込み、北條も軽く振り向いて見やった。
「何ですかこの店は……私たちは客ですよ、早く案内しなさい」
 客らしき男性の声。どこかで、聞き覚えがある。ふと見ると翔一は、予想外の事態に驚きを隠し切れない様子で、口を半開きにしてぽかんと入り口の方を見ていた。
「あ、はい、申し訳ございません……どうぞ」
 まだ戸惑った様子だったが、可奈は頭を切り替えたのか返事を返して、入ってきた男女の二人連れを中へと案内する。
 入ってきた男は、北條に気付いて足を止めた。可奈がばつの悪そうな顔をし、男の隣の華やかな女性も、驚愕に目を見開く。
 眼鏡をかけているし、髪はより短くてウェーブがかかっている。北條は決して袖を通さないような趣味の悪いレザージャケットと柄シャツに身を包み、まるでチンピラだ。だが、似すぎている。
 北條は思わず席を立って男の顔を見つめた、男も同様に北條の顔をまじまじと見つめてくる。
 本当に瓜二つだった。これなら誤解しても仕方あるまい。そのまま暫し、思考も止まったまま見つめ合う。
「……どっちが、ワームだ?」
 あらぬ方向から、聞き覚えのない声がした。店の中にいた常連客のうちの片方――片袖を切ったレザーコート、パンクファッションに身を包んだ明らかに不審な男――がゆらりと立ち上がって、北條と北條にそっくりな男を、やや俯いて上目遣いに睨みつけていた。
 淀んだ暗い目には、強い憎しみの光がぎらついている。そんなに憎まれる謂れはない、北條も北條にそっくりな男――恐らく、『タクマ』とクリーニング屋で呼ばれていた男――も困惑して眉を顰めた。
「……ちょっ、ちょっと矢車さん、何ですかワームって! 北條さんは俺の知り合いだし、こちらの方はお客様です、やめてくれませんか店の中で」
 ようやく我に返ったのか、翔一が腰を浮かせて矢車と呼ばれた不審者を嗜める。
「津上先生、あんたは光の中で生きる人なんだ、あんたは知らなくていい……奴等は、俺と地獄を這いずり回ってりゃいいんですよ……!」
「意味が全然分かりませんよ、いけませんよ地獄とか物騒なんだから!」
 津上の言葉にも、矢車と呼ばれた男の瞳に宿った暗い炎は消えない。琢磨と北條はそれぞれに、不愉快そうに顔を顰めて矢車を見た。
「……本当に失礼だな。これだからレベルの低い店は。僕をあんな下等種と同列に扱うとは」
「あんな化物と一緒にされるのは不快極まる。津上さん、何なんですか一体この男は」
「だから、ワームって何なんですかってば!」
 津上の疑問に答える者はいない。三者は睨み合い、動く様子がない。琢磨の隣にいた女が、呆れた様子で一つ息を吐いた。
「全く……揃いも揃って仕様のない坊やたちだこと。そちらの黒いコートのあなた、いいこと、彼はワームでは在り得ないわ。決してね」
 艶然と微笑む女は美しい容姿だったが、鋭い冷たさを目に湛えていた。言われて矢車は北條を見た。
「……ワームかどうかは、体を調べれば分かると聞いています。何なら、検査していただいても構いませんよ。私に後ろ暗い所はありません、正真正銘の人間です」
 北條も大分頭にきているのだろう、据わった目で矢車を睨みつけ決然と言い放つ。
「ああもう、何で皆さんそんなに喧嘩腰なんですか、やめて下さいよ。そうだ、こういう時は親睦を深めるために皆で手巻き寿司を」
「……津上さんあなた、絶対わざとですね」
「そんなんじゃありませんって、わいわい皆で食べたら蟠りもなくなって、仲良くなれるじゃないですか。いい考えだと思ったんだけどなぁ」
「別に仲良くなりたくなどありませんし、私は手巻き寿司は嫌いです! 帰ります」
 最後の方は声を荒げかけつつ、北條は何とか冷静を取り繕って席を立ち、大股で出入口へと歩いて行った。可奈が慌てて後を追う。
「……ねえ琢磨くん、ケチがついちゃったし、私達も他の店にしましょうか」
「そうですね。どうも、お騒がせしました」
「ああぁ、すいません、またどうぞ!」
 まだ席にも着いていなかった二人組も、興醒めした様子で踵を返した。翔一がやはり慌てて後を追い頭を下げた。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ