【春コミサンプル】無言で伝えるメッセージ【普ロマ】
ああ、まただ。
自宅に届いたダイレクトメールを選別している時、ヴェネチアーノは一枚のポストカードで手を止めた。兄宛のポストカード。差出人もメッセージも無いそれ。ただ風景の写真が印刷された、どこかで販売されている紙。
乱暴ながら几帳面に書かれたイタリア語の宛先の文字は記憶と変わらず、今回の葉書もまた、今まで何度も送ってきている相手からだろう。
そして、その相手は『国』である。
ヴェネチアーノにはそんな確信があった。
この葉書に初めて気付いたのは、イタリアが統一して暫く経った頃だったと記憶している。
兄宛の手紙は少なく、そんな中届く差出人不明の葉書。
その頃は葉書自体が珍しく、随分流行りもの好きな相手からなのだなと思っていた。
それから年に数度だけ、季節関係なく届けられる絵葉書。
消印はヨーロッパ各国を網羅し、比較的ドイツが多い気がする程度。更に、統一して百年を越えた今も届いている。宛先しかない葉書に以前はおっちょこちょいだなと笑ったものの、以降届く葉書も全てメッセージ無し。受け取る兄は何も言わないので、そういう相手なのかもしれない。
一体この相手は誰なのか。
今日届いた葉書に印刷されている写真は、真っ青な空と山脈。その山の形に既視感を覚え、ヴェネチアーノは記憶を漁り始めた。
「ドイツ?」
口から零れたのは友人の国。以前彼が山に登った写真を見せてもらった時、こんな形の山が写っていた気がする。
何だか気になる。
ヴェネチアーノは兄宛のポストカードを机に置くと、ドイツの家に写真を見に行くことにした。
「……心当たりがある」
友人宅に押しかけ、怒られながら山の写真を見ていると、ドイツが顎に手を当て何か思い出しながら呟いた。
「へ? ドイツ、ポストカードの写真の山は見てないよね?」
「いや。ポストカードに、だ。正確に言えば、『メッセージの書かれていないポストカード』だな」
メッセージの無いポストカード。
ロマーノ宛のそれと同じ物を見た事があるというのか。
「どこで?」
首を傾げ、話の続きを待つ。どうやらドイツもその存在を不思議に思っていたようで、話が繋がったような顔をしていた。
「……兄さん宛に、そんなポストカードが何年も届いている」
「プロイセンに?」
メッセージの無いポストカード。そんなものがあちこちに届くとは思えない。
「それ、いつから来てるのか分かる?」
「兄さんと同居してからだ」
「じゃあ、もう結構経ってるね」
「お前の方は?」
「俺達が統一してからだよ」
統一して百五十年。その長さから、送ってくる相手は『国』だと思っていた。……もしかして。
「兄ちゃんとプロイセンが……?」
「もしくは、二人共通の知り合いか、だな」
「ちょっとドイツ来て!」
今から急いで帰れば、兄が帰宅するより先に戻れるかもしれない。慌てて友人の腕を掴み、ヴェネチアーノは自宅に戻る。ロマーノが帰宅していないのを確認すると、荒い息を抑えつつ放置したままのポストカードを拾い上げた。
「……兄さんの字だ」
普段見慣れていないイタリア語だからか判別しにくいが、文字の跳ね方に特徴がある。プロイセンが間違えないように丁寧に書いたらこんな文字だろうなと予想出来る文字だった。
「じゃあ、やっぱり二人が……」
メッセージが無いので、文通とは言えないかもしれない。でも、普段顔を合わさない、お互い話題にもしない二人がこんな関係を持っているとは思わなかった。
「確かに届く葉書にはイタリアの消印が多い気がしていたが……。兄さんと南イタリアは仲がいいのだろうか」
「うーん……。俺が知ってる限りだと、兄ちゃんはプロイセンのこと苦手に思ってた筈だけど」
ドイツの疑問に、あのにやけた顔がいけ好かないと、ぽこぽこ怒っていた記憶を引っ張り出す。顔を合わせれば眉間に皺を寄せる有様で、仲良しとは到底思えない。
「……でも、プロイセンは昔、兄ちゃんの騎士様だったんだよね」
兄を、南イタリアを、聖地や教会を守る為に生まれた騎士団。それがプロイセンの出自。そう考えれば、兄との付き合いは自分よりも長いかもしれないとヴェネチアーノは思った。
「の割には、だな……」
プロイセンがロマーノを呼ぶ際、割と最近まで『イタリアちゃんのお兄様』呼ばわりだった。ようやくそれは止めたようだが、手紙をやりとりする仲なのにそんな他人行儀な呼び方を普通するだろうか。
二人顔を見合わせ、同時に首を傾げる。以前からの謎だった手紙の主については分かったものの、更なる謎が二人を包んでいたのだった……。
自宅に届いたダイレクトメールを選別している時、ヴェネチアーノは一枚のポストカードで手を止めた。兄宛のポストカード。差出人もメッセージも無いそれ。ただ風景の写真が印刷された、どこかで販売されている紙。
乱暴ながら几帳面に書かれたイタリア語の宛先の文字は記憶と変わらず、今回の葉書もまた、今まで何度も送ってきている相手からだろう。
そして、その相手は『国』である。
ヴェネチアーノにはそんな確信があった。
この葉書に初めて気付いたのは、イタリアが統一して暫く経った頃だったと記憶している。
兄宛の手紙は少なく、そんな中届く差出人不明の葉書。
その頃は葉書自体が珍しく、随分流行りもの好きな相手からなのだなと思っていた。
それから年に数度だけ、季節関係なく届けられる絵葉書。
消印はヨーロッパ各国を網羅し、比較的ドイツが多い気がする程度。更に、統一して百年を越えた今も届いている。宛先しかない葉書に以前はおっちょこちょいだなと笑ったものの、以降届く葉書も全てメッセージ無し。受け取る兄は何も言わないので、そういう相手なのかもしれない。
一体この相手は誰なのか。
今日届いた葉書に印刷されている写真は、真っ青な空と山脈。その山の形に既視感を覚え、ヴェネチアーノは記憶を漁り始めた。
「ドイツ?」
口から零れたのは友人の国。以前彼が山に登った写真を見せてもらった時、こんな形の山が写っていた気がする。
何だか気になる。
ヴェネチアーノは兄宛のポストカードを机に置くと、ドイツの家に写真を見に行くことにした。
「……心当たりがある」
友人宅に押しかけ、怒られながら山の写真を見ていると、ドイツが顎に手を当て何か思い出しながら呟いた。
「へ? ドイツ、ポストカードの写真の山は見てないよね?」
「いや。ポストカードに、だ。正確に言えば、『メッセージの書かれていないポストカード』だな」
メッセージの無いポストカード。
ロマーノ宛のそれと同じ物を見た事があるというのか。
「どこで?」
首を傾げ、話の続きを待つ。どうやらドイツもその存在を不思議に思っていたようで、話が繋がったような顔をしていた。
「……兄さん宛に、そんなポストカードが何年も届いている」
「プロイセンに?」
メッセージの無いポストカード。そんなものがあちこちに届くとは思えない。
「それ、いつから来てるのか分かる?」
「兄さんと同居してからだ」
「じゃあ、もう結構経ってるね」
「お前の方は?」
「俺達が統一してからだよ」
統一して百五十年。その長さから、送ってくる相手は『国』だと思っていた。……もしかして。
「兄ちゃんとプロイセンが……?」
「もしくは、二人共通の知り合いか、だな」
「ちょっとドイツ来て!」
今から急いで帰れば、兄が帰宅するより先に戻れるかもしれない。慌てて友人の腕を掴み、ヴェネチアーノは自宅に戻る。ロマーノが帰宅していないのを確認すると、荒い息を抑えつつ放置したままのポストカードを拾い上げた。
「……兄さんの字だ」
普段見慣れていないイタリア語だからか判別しにくいが、文字の跳ね方に特徴がある。プロイセンが間違えないように丁寧に書いたらこんな文字だろうなと予想出来る文字だった。
「じゃあ、やっぱり二人が……」
メッセージが無いので、文通とは言えないかもしれない。でも、普段顔を合わさない、お互い話題にもしない二人がこんな関係を持っているとは思わなかった。
「確かに届く葉書にはイタリアの消印が多い気がしていたが……。兄さんと南イタリアは仲がいいのだろうか」
「うーん……。俺が知ってる限りだと、兄ちゃんはプロイセンのこと苦手に思ってた筈だけど」
ドイツの疑問に、あのにやけた顔がいけ好かないと、ぽこぽこ怒っていた記憶を引っ張り出す。顔を合わせれば眉間に皺を寄せる有様で、仲良しとは到底思えない。
「……でも、プロイセンは昔、兄ちゃんの騎士様だったんだよね」
兄を、南イタリアを、聖地や教会を守る為に生まれた騎士団。それがプロイセンの出自。そう考えれば、兄との付き合いは自分よりも長いかもしれないとヴェネチアーノは思った。
「の割には、だな……」
プロイセンがロマーノを呼ぶ際、割と最近まで『イタリアちゃんのお兄様』呼ばわりだった。ようやくそれは止めたようだが、手紙をやりとりする仲なのにそんな他人行儀な呼び方を普通するだろうか。
二人顔を見合わせ、同時に首を傾げる。以前からの謎だった手紙の主については分かったものの、更なる謎が二人を包んでいたのだった……。
作品名:【春コミサンプル】無言で伝えるメッセージ【普ロマ】 作家名:あやもり