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【春コミサンプル】無言で伝えるメッセージ【普ロマ】

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「無言で伝わるメッセージ」


 その手紙が初めて届いたのは、何も変わらないいつもの朝だった。封筒の文字に見覚えは無く、裏を返せばリターンアドレスも無い。何となく封筒を振ってみれば、カサカサと乾いた音をたてた。
 一体誰のイタズラだろう。
 そんな事を思いつつ、プロイセンは家の中へ戻る。
 もしかしてシャイな女の子からのラブレターかもしれない。そんな希望を持って開けた封筒には、一枚の紙が入っていた。
 二つ折りされた紙は便箋には厚めのように見える。更には少し水でよれたような跡があり、一層謎を呼んだ。そっと折られた紙を広げて見る。そこに描かれたものを見て、思わずプロイセンは息を呑んだ。
 手紙かと思いきや、描かれていたのは文字ではなく風景画。
 美しい海が描かれた港であるのに、どこか色が寂しく見える。丘の上の建物から、これはイタリアの風景であるとプロイセンは気付いた。
 ……そして、差出人についても。
 絵にサインは無いが、この絵を描いた人物が頭の中に浮かぶ。イタリアの半分、弟と違い可愛げの無い、だが自分の根幹に居る青年。
「珍しいな、あいつが俺に手紙出すなんて」
 手紙と言うには奇妙な代物だが、彼が自分に何かを送るのは初めての事。長い間ちらちらと関係があるものの、あの子供は自分から逃げ腰だった。
 思わず口元を笑みが飾り、そして絵に視線を戻して顔を引き締める。
 これは『助けを求める声』だ。
 他の誰でもない、自分に助けを求める声。
 誰に話すことも出来ない苦しい心のうちを、知って欲しいと泣く声だ。でなければ、美しい港の絵がこんなにも胸を締め付けるはずが無い。
 助けを求める言葉を出せない不器用な彼を思い、プロイセンは絵を封筒に戻した。本音を言えば今すぐ彼の所に行って励ましてやりたい。だが、ロマーノはそれを望まないだろう。
 他人に漬け込まれるような弱さを見せる事を嫌う気持ちは理解でき、気持ちを落ち着かせようと手紙を机の引き出しにしまおうとする。
 開いた場所にあった物を見て、プロイセンは閃いた。
「これがあったか!」
 引き出しに入っていたのは、最近発明されたポストカード。手紙と違い丸見えのメッセージ欄だが、目新しさは群を抜く。
 脳内で流行りものを使うなんてカッコいいと賞賛される姿を思い浮かべ、プロイセンはによによとしながら葉書を引っ張り出した。
 さっそく弟と同居しているという彼の家の住所を記入する。さて、残るはメッセージだ。
「んー……頑張れ! じゃあ駄目だろうな」
 ロマーノが何を悩んでいるのかは分からない。何も告げない彼の絵を見直すものの、ただ彼が酷く落ち込んでいることだけしか読み取れなかった。
 ……読み取れはしないのだが、たぶんこれだろうなという予想はある。
 イタリア統一。
 自分も手を貸したそれ。
 兄弟で暮らすと決め、その為にスペインでぐうたらしていたあのロマーノは昼も夜も働いていた。靴を買うよりも大切なものがあると話す、しっかりと未来を見つめた瞳。
 先日の統一記念パーティも十分に『国』として立っていた。
 手にした葉書をひらひらと振り、溜息をつく。
 そう、彼は統一してもそこに居た。
 失礼な言い方になるが、正直プロイセンは統一の際ロマーノが消滅するのではないかと思っていた。南北の統合、一つになる国。連合国ではなく同一になるというのは、相当恐怖を伴った筈だ。
 しかも、相手は農業中心の南に対して工業に優れた北。どちらが栄えているなんて誰にでも分かる姿。その力関係は国同士にも影響される筈だ。
 生まれたからには統合程度では消えないのか、それともこれから消えるのか。神聖ローマ帝国の面影を脳裏に浮かべ、プロイセンは大きく溜息をつく。
 きっとロマーノの抱える恐怖はずっと続くのだろう。
 それこそ、本当に消えるまで。
 手紙の内容を勝手に想像し、それは話せない悩みだなと頷く。弟に話せば泣かれるだろうし、そもそもヴェネチアーノ自身も同じ恐怖を感じているかもしれない。
 親同然のスペインだって、その可能性は感じているだろう。話せそうな相手は同じように恐怖を抱えているかもしれない。無くとも、胸の内を話せば悲しませる可能性がある。
「で、俺か」
 なるほどと、もう一度頷く。メッセージが無い所から察するに、こちらの返事は期待されていないようだ。そもそも気付いていないと考えているのかもしれない。
「ケセセセセ、俺様なめんなよっと」
 この葉書が届いて驚くがいい。プロイセンはニヤリと笑い、葉書のメッセージ欄に翼を広げた小鳥の絵を描いた。黒のインク一色、一発描きだがなかなかの出来だと自画自賛する。
「……気にするなってのは無理だろうが、それでも縮こまらずに羽ばたけよ」
 聖地を内包するあの子には、きっと白い翼がある筈だ。
 遥か昔、まだ自分が『国』では無く騎士団だった頃に見たロマーノの姿は、その愛らしさも相まって本当に天使に見えた。今は色々あって相当捻くれたようだが、統一に向けて働いていた瞳に煌くのはあの頃と変わらぬ純粋な光。
 駆け引きが出来ないある意味清らかな魂の持ち主の叫びをしっかりと受け止め、書き終えた葉書にキスをする。これを受け取った時、ロマーノはどんな顔をするのだろう。
 想像するだけで笑みが込み上げ、プロイセンは早速葉書を出す為に上着を着た。