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【春コミサンプル】無言で伝えるメッセージ【普ロマ】

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「うそだろ」
 買い物帰りに郵便受けを覗いたロマーノは、思わずそう呟いた。噂に聞いていた葉書という紙に書かれているのは、自分の名前。差出人の名前は無く、消印はかの国を示している。
「何で……」
 一体どうして気付くのか。奪うように葉書を引き抜くと慌てて家に入り、そのまま自室へ駆け上がる。バクバクと煩く騒ぐ心臓を押さえ、荒い息のままベッドに座った。
 数度大きく深呼吸をし、パニックを起こしかけている頭を冷やす。震える手で先程の葉書を取り出すと、ロマーノはまじまじと見つめた。
 リターンアドレスはなし。メッセージもなし。
 メッセージを書くと思しき場所には、下手糞な鳥の絵が描かれていた。これは自分の絵に対抗したのだろうか。
 正直、気付くだなんて思っていなかった。大雑把で適当そうに見えていた男は、想像以上に細やかな神経をしているらしい。
「にしても、この鳥何だよ。……鳥、だよな?」
 気付いて貰えて嬉しいと騒ぐ胸を右手で押さえ、葉書に描かれた絵に文句をつける。
 大きく翼を広げた不恰好な鳥。下手なくせにやたら堂々としている姿に、思わず吹き出してしまう。これは彼なりの励ましなのだろうか。
「変なやつ」
 ベッドにごろりと横になり、葉書の鳥を見つめ続ける。黒いインクで描かれた力強い線画。返事が返ってきたということもあり、なんだか広げた羽がこちらを受け止めようとしている風にも見える。
 じわりと滲んだ視界はあっという間に世界を閉ざし、顔の横を熱い雫が流れた。
 どうしてあの男に助けを求めてしまったのか。瞼を閉じ、涙を零す。ずっと苦しかった。恐ろしかった。恐怖はじわじわと精神を汚染し、喉元まで競り上がっていた。
『いっしょになろうよ』
 弟がそう懇願するように口にした日。
 あの時、その恐怖は自分の中に根付いた。
 どちらでもない。何故か絶対に「自分が消える」と思った。
 自分の役割は、これで終わるのだと。
『……ああ』
 弟に全てを託し、消えるのか。
 まだ生きていたいと思う気持ちもあったが、もう休みたいとも思っていた。スペインの元を離れ一人でどうこう出来る気がしないし、弟と一緒になることで比べられるのも嫌。
 ならこれでいいか。
 消えて、自由になるのもいいか。
 相次ぐ戦争で痛めつけられていた精神は自暴自棄を越え、ただ消滅を望む。きっと泣くだろうスペインやヴェネチアーノの存在も、ロマーノの心を引き止めることが出来なかった。
 だが長年続いた南北の分断の溝は、想像以上に埋まらない。縮まない心の距離は『国』にも影響し、二人のイタリアは地上に留まり続けた。
 ……そして消えない恐怖。
 今だけ、先延ばしされただけ。
 その思いはふいに顔を出す。雨の日や疲れた日、決まってロマーノの心が弱った時にじんわりと闇は染み出した。
 繰り返される喪失への恐怖。いつ消えてもいいように、人との接触は最低限に抑える生活。『国』の中でも心を閉ざし、孤立していく日常。
人恋しくて泣きたくなる夜もある。それでも、親しい人を作るのは怖かった。自分の為に泣かれるのは嫌だった。
(プロイセンのアホちくしょう)
 ついに恐怖が精神に打ち勝ち、震える足が自ら死を望もうとする。どこまでしたら死ぬのかロマーノが屋上で考えていると、馬鹿みたいな高笑いが下から聞こえた。
 確認するまでもなく、声の主は自称最強俺様・プロイセン。ヴェネチアーノを気に入っているくせに適当な返事をされている、可哀想でお笑いな男。
『俺様が守ってやってもいいんだぜ!』
 ふいに昔の声が耳に浮かんだ。まだお互い小さく、プロイセンがその名を名乗っていなかった頃。えらそうにふんぞり返りながら、あの男は自分にそう言った。
 聖地を守る騎士団として生を受けた『国』。
 彼の生誕に領土が関わっているせいか、あの男の顔はいけ好かなくとも変に安堵する時がある。奥底で信頼する何かが、まだ残っているのかもしれない。
 試してみようか。
 ふいにそんな考えが頭に浮かぶ。スペインに勝るとも劣らない鈍感な男と、まだ繋がりがあるのか。それともこの胸にある気持ちは勘違いなのか。
(あの日の言葉は、いつまで有効なんだろう?)
 先程まで恐怖で震えていた足はすんなりと動き、自室へ戻って行く。背中でプロイセンの馬鹿笑いがまた響いたが、ロマーノは振り返らなかった。


本編へ続く。