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矛盾に満ちた月空【伊食】

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真ん丸のお月様が浮かんでいた。

それは不思議な光景めいていて、月の明かりが夜空を照らす所為で星が輝けない、矛盾に満ちた感覚に襲われてしまいそうな空だった。
反響して耳へと届く、鳴き声は忙しない。虫のそれ。蛙のそれ。歌うように、嘆いていた。
狭い世界に落ちたものだ。
文字通りの自分を笑えば、それに呼応するように鳴き声は更に大きく、なった。少しだけ、五月蝿い位だ。
縦に、只菅に地中深く掘られた穴は罠の類いも無く、良く言えば運が良かった。正確にはハズレに落ちたのだと、作っただろう者は言うが。
不乱に掘り進んでいた時に何を思っていたのか。何も思わないのか、この脆さとは遠い頑丈な穴を作り上げた者に訊いてみたいとも思った。
土壌や地質から計算をし、技術を使って出来上がる。その使い道を誤っているとも言いたくなるような情熱を、生み出す何かの正体を。

月は大分、姿を見せてくれていた。
夜空の真ん中に差し掛かる、夜半も過ぎた時分が妙に居心地の悪さを背中に走らせる。
自分の他に誰も居ない。
世界にただ一人、取り残された錯覚。それが寂しいのか恐いのか虚しいのか、判りもしない儘。
けれど確かに、此処には自分一人しか居なかった。誰が通る時間では無く、誰かが来る訳もない。
裏裏山の、山中。
木々の袂で騒ぐ虫たち。近くに流れていた小川の淵で声をたてる蛙たち。
静寂とは程遠いのに、静寂よりも孤独を思う。
嗚呼、
不意に思い浮かべてしまう顔に安心感を抱くのは条件反射の所為であって、それが存外に多い回数だと知れば出演料を払わなければならない気もした。
登って、学園に帰れたなら優しくしよう。例え仕様のない意地の張り合いで怪我を作っていても、怒らないであげよう。…一回位は。
今の時分なら布団の上で眠っているだろう。常の自分も、常の彼も。だから聞こえない。聞こえる筈がない。
呼ぶ、声。
名前。探すように、呼び掛けるように、何度も張り上げられる。
高く太い、不思議な甘さのある声。


「いさく」


見つけた。
彼はそう言って、いつも落とし穴に嵌まる自分を助けてくれた。
学園中に暇を見つけては増殖されていく穴たちを埋めるのを仕事の一つとして任されている彼の、苦い笑いを滲ませた声。また、引っかかったのかよ。鋭い眼差しが呆れた色を持つ瞬間の顔。











それが、好きだった。