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矛盾に満ちた月空【伊食】

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「…趣味だろ、なんか、もう?」


そんな訳無いでしょう。
好きで落ちたりなんかしないよ。
返す言葉は土壁に反響して虚しく鳴った。聞き取り難いそれに、笑う声。
でも、良く此処に居るって分かったね?
するすると下ろされてくる縄を掴んだ。気付いてくれてありがとう!
月は中天を過ぎていた。
朧を作る薄い雲が灰色と紺碧の混ざりあった夜空に浮かびあがって、居る。
見慣れた、何よりも見たかった顔を見れた嬉しさに頬が緩んでいるのが分かった。


「何年、同室してると思ってるんだ?」


判るに決まってるだろう?
空が近付いてくる。森の木々の隙間から射し込んでいる月の光が彼を照らしていた。
会いたかったと嘯いた自分の声が、なんてウソっぽい起伏だろうかと笑いそうになる。







嗚呼私たちは実の所、何も判ってはいないんだよ。この感情の名前も、それを抱いている私も、判ってなんか居ないんだよ、留さん、君は、










矛盾に満ちた月空の夜が更けていく。