emotional 02
こんな俺を知ったらアイツはどうするだろう?
落胆し軽蔑するだろうか?
俺はお前が怖いよ。
お前の仕草一つで俺は簡単に傷つけられる。
日本サッカー界の至宝と呼ばれているが、お前の前じゃあ俺は、ただの普通の兄にすらなれない駄目な男なんだぜ?
emotional ACT,02
その日の朝は生憎の雨。
普段なら部の練習があるのだが、早朝から降り続いている激しい雨のせいで急遽練習は中止になり久しぶりに土曜日をのんびりと過ごせる休日へと変えた。
人間とは不思議なもので、やらなくて良くなるとやってしまう、普段ならギリギリに起きてくる弟の駆も定時に目を覚まし朝食を食べながらリビングのテレビへと視線を向けていた。
「せっかく早起きしたのに……」
「フフフ、駆が珍しい事するから雨が降ったんじゃないの?」
「母さん!僕が起きる前から降ってたんでしょ!」
「どうだったかなぁ?同じ位だったかもよぉ」
「もぉ!!」
目の前で繰り広げられる駆と母親のやりとりに思わず苦笑してしまう。
本当にしっかりと目を覚ましている駆はブツブツ文句言いながらパンにジャムを塗っている。
可愛い
隣で同じようにパンにジャムを塗っている妹の美都に対しても可愛いと思う事もある、だけど、その可愛いとこれは違うもの。
「こんなことなら全員分頼んでおけば良かったわね」
「何が?」
「今日から一泊二日、町内会の人達と温泉旅行に行くって前から話してたでしょ?」
母親に言われて、そう言えばそんな事を言われたなぁと思い出す。
美都も連れて母親と父親は一日家を留守にするのだと。
俺と駆は部の練習の事もあり当然の事ながら一緒には行けない。
「あれって今日だったんだ」
「そうよ、母さん達そろそろ出かけるけど、二人は大丈夫?」
「えっ?」
「えって傑、あなた話聞いてた?」
「………」
「黙って誤魔化さない!今日と明日は天気予報だと雨らしいけど、家の事と駆の事。任せたわよ?」
「あっああ」
「本当に大丈夫?」
漸く、母親が言っていた言葉を理解した瞬間、俺は絶句する。
こんなに余裕のない俺が、二日も駆と二人っきり。
血の気が引く。
「かっ駆一人くらい連れて行くのは無理なの?俺は一人で平気だからさ」
「無理ね、旅館は前以て予約してるから料理の問題とか出てくるし」
「そっそう」
「そういうこと、任せたわよ」
「あ、うん」
「母さん!美都!!時間だぞーーーーっ!!」
「はーーーい!まったく、美都よりもお父さんのほうが子供みたいね」
「ハァー、まったくお父さんは」
遠足前の子供の如くはしゃぐ父親に美都は盛大な溜息をつき、母親は苦笑しながらバタバタと荷物を持って旅行へと旅立っていった。
残されたリビングは先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かになる。
リビングのテレビの音がやけに大きく感じた。
「にっ兄・・・」
「部屋、戻るから」
「えっ!……あ、うん」
マズイ。マズイ。
食べた食器を流し台に持っていき手早く洗って片付け急いで自室へと戻る。
ドクンッ、ドクンッ。
二人きりになっただけでこの様だ。
浅ましい位の欲情。
この家にいるのは今、俺とアイツだけ。
たったその事実だけで、俺はこんなになる。
マズイ。本気でこれはマズイ。
作品名:emotional 02 作家名:藤ノ宮 綾音