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愛の始点

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それからアーサーがふたたび会議室に戻ったのは、十分後のことだった。ざわめいていたそのなかがしんと静まって、そうしてふたたびうるさくなる。どうしたんだい、と心配そうに眉をしかめて近づいてきたのは、かつて、彼が愛した少年だった。いささか調子が悪いと返すと、なにそれ帰ったほうがいいんじゃないか、帰れないほど具合が悪いならそこの仮眠室で休んでいくといい、そうやってあれこれと世話を焼き始めるので、構わない、平気だと、とどめるように片手を少年のまえに上げて、それきり、口をとざした。大仰に席に着いてはたと視線をもちあげると、眼前に座るフランシスが、いぶかしげな様子でこちらに気をやっている。大丈夫だ。言い聞かせるようにして声もなくくちびるを動かすと、彼は長い金髪を揺らしてすこし、肩をすくめた。はあ、と息が漏れる。そうしてわずかに首を巡らせる。ルートヴィッヒは涼しい顔で、あちこちと書類に目をやっている。やがてこちらの視線に気づいたらしい。冷たい色の瞳を周囲に悟られぬように寄越して、喉の奥のほうで、わざとらしく笑いを噛み殺してみせた。
それからの記憶はあまり、ない。会議は相変わらずで、書類の中身は一向にすすまないままだった。帰りざま、少年が本当に大丈夫かい、ぼうっとしていたけれど、と声をかけてくるのに、ここで眠って帰ると一蹴したくらいである。いつから自分は少年に、こういう態度をとるようになったのだろう、とぼんやりと頭のすみのほうで思ったが、それよりもアーサーには気に寄ることがあった。ルートヴィッヒである。男の様子はかわらなかった。時折、会議の合間にこちらを見ては笑ったくらいで、帰りざまも平生と変わりなく、へらへらと気弱そうなイタリアンにまとわりつかれて、一瞥を寄越すこともなく帰ってしまった。仮眠室の、冷えきったシーツに身を沈めながら考える。あの男も、上っ面になにか底知れぬものを張り付けているのだろうと。自分とおなじ、だからこそ、この顔にはりついた穏やかさが嘘っぱちであることに気がついたのやもしれぬ。ふ、と瞳をとじる。まぶたの裏にこびりついてとれないのは、やはりあの男の冴えた笑みである。殴ってやりたい、と、思った。あの、強烈にうつくしく歪む表情を浮かべる余裕さえないまでに、暴力を施してやる想像をする。そうして腫れて赤くなった頬に塩を塗りたくって、静かにくちびるを落としてやるのだ。そうすれば、あの男はどういう顔をするだろう。高見の見物のような涼しい顔を、このどす黒く深いところまで引きずりおろしてやれるのだろうか。じわじわと、腹の下のほうに妙な熱がこもってくるのを感じて、おさえこむように深く息を吐きだした。とりあえずアーサーの、たしかに正常ではない愛の観念からして、まずは与えることからはじめなければ、ならない。横たえていた半身を起して、ポケットから煙草を取り出した。じいっとライターをこする。細い煙が先のほうから立ちのぼる。次に会議で鉢合ったときは、あの男の分の紅茶も、淹れてやらねばならない。ふう、と長く煙を吐き出した。あの、憎ったらしい、吐き気がするほどきれいな顔。嘘くせえ。ここ数時間、そういう男のことばかり考えている。


愛の始点 (20120317 / 英→←独)
By,reqest - thanks!!

作品名:愛の始点 作家名:高橋