加害者の手
明らかに自虐だった。そして酔ってやがった。
俺みたいな落ちぶれたクズと一緒になる事で、自分も俺と同様なクズになってしまった気分に荒北は浸っていた。
だって荒北は何もしていなかった。
酒は飲まない。
タカリもしない。
ケンカもしない。
盗みもしない。
女もやらない。
クスリもやらない。
バイクだって、ノーマルの原チャリが限度で派手なことはしない。
学校を辞めたいとか言っておきながら実際に辞める訳じゃない。
お前、あの学校の授業についていけないわけじゃないんだろ。
真面目に勉強すればついているだけの頭はあるんだろ。
引きとめようとする周りの人間の反応が欲しくて、そんな時代錯誤のわかりやすい不良の格好してんだろ。
ふざけんなよ。
なに、安全圏でドロップアウトごっこしちゃってんの?
俺はもうあの場所には帰れないのに。
気がつくと俺は、男と同じように荒北の髪を掴んでいた。
「……お前さ、いい加減目障りなんだよ」
わかるか?“イイ子ちゃん”よ。
自業自得で本当にクズになってしまった俺。
クズになりきれず、自分を求めてくれる場所を見つけて出て行こうとするお前。
この、ゴミクズが集まる底なし沼から這い出て行こうとする前向きな強い目がさ。
その視線が俺の手を加害者にする。