emotional 番外編01
数日前まで悩みに悩んでいた友人は、自分的にもとても心配していた土曜日以降、信じられない程、爽やかな笑顔を見せてくれた。
その貴重とも言える笑顔が、俺には信じられない程。
怖かった。
emotional 番外編 国松広実の苦悩
友人である逢沢傑が今にも消え入りそうな声で俺のかけた電話に出たのは今から数日前の出来事だ。
日本サッカー界の至宝なんて世間では大いに騒がれ、サッカーも天才的で容姿も抜群、成績も良いなんてくれば当然アイドルスター並に女子共に騒がれるのは納得だろう。
先輩や同級生に後輩、更には他校生の女子からも好意を寄せられ騒がれている注目の男なくせに、アイツが選んだのは美人でもなければ可愛いでもない、更に言うと女子と言う性別ではない人間だった。
目の前でチームメイト達に先輩や監督を差し置いて厳しく指示を出している傑へと視線を向ける。
『何で俺は『駆』だったんだろうな、だけど、『駆』だけなんだ、どうしようもない、だろ?』
そう言って悩んでいた。
あんなに老若男女に人気の男が悩んで悩んで選んだのは、血の繋がった実の『弟』だ。
正直、理解は出来ない。
出来る訳がない。
だけど、アイツの目は、サッカーをしている時のように真剣そのもので、笑い飛ばす事もできなかった。
俺がアイツの気持ちに気がついたのは、アイツにそれを教えた少し前の事だった。
たまたま忘れ物をして取りに戻った学校の部室、ドアを開けようとしたが中に誰かがいる音がしたので、こっそり確認しようとした時だった。
こんな時間まで残って練習していたのか、まだ練習着を着た傑と駆がいた。
正確に言えば、ベンチに疲れて眠ってしまっている駆と着替えをしていた傑がいた。
何時もの調子で声をかけようとしたが出来なかった。
着替えを終えてそっと駆の眠るベンチに腰を下ろすと、優しく駆の額にかかる髪を撫でる傑。
その瞳が、今までみたこともない程、甘く優しかった。
一瞬、弟に対するものだと思おうとした、だけど。
その後、傑はそっとその額にキスをしたのだ。
アイツを知っているからこそ、その好意が兄弟のそれではないと思った。
それからは、気をつけてみれば意外に解りやすかった。
厳しく注意して、悲しそうな顔をする駆を密かに心配そうに見たり、駆が遅くまで練習
していれば、自分も合わせているようだった。
だから、ずっと心配していた。
そう!心配していたのだ!!!!もの凄く!!
なのに!!なのにだ!!どう言うことだ!!
「駆っ、何処で遊んでたんだお前は、ほらっ葉が頭についてる」
「うわっ!あっありがとう兄ちゃん」
「たくっ、お前は」
「兄ちゃん、恥ずかしいよ」
「フッ」
どこのイチャイチャカップルだお前らぁああああああああああっ!!!!
練習が終わり珍しく一緒に帰る事になった逢沢兄弟。
隣ではこんな会話が先程が何度も繰り返されている。
傑!なんだその甘い顔は!!!
駆!なんで兄貴にゴミを取ってもらった程度で頬を染める!!
一体、二人に何があったというんだ!?
作品名:emotional 番外編01 作家名:藤ノ宮 綾音