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水の器 鋼の翼4

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 6.

 囚人たちの死んだような目、あるいは不平不満を無理やり押し込めたような目。
 そんなありふれた視線に混じって、レクスをただまっすぐに見つめ返していたのは一対の青い目。

 十七年だ。カードとして生み出されてからそれだけの長い年月を掛けて、三体のドラゴンはこの広大な世界で首尾よく自らのシグナーを見つけ出した。
 三人中二人が、レクスが脱出したサテライトにいたというのだから驚きだ。しかも、片方はあの不動博士の息子、遊星であるかもしれないのだからなおさらだ。
 レクスは、イェーガーを通してその内の一人と接触した。遊星ではない、彼と共に育った幼なじみ、ジャック・アトラスの方だ。
 シティでの身分を約束すれば、ジャックは面白いように食いついてきた。希望を叶える条件として、幼なじみのドラゴンカードの奪取が含まれているのに関わらずである。
 結局、人は何かを犠牲にしながら何かを得て生きている。誰だってそうだ。ジャックもZ-oneも、レクス自身も。この世界はそんな風でしか生きられないようにできている。それが、苦難に満ちた人生でレクスが痛い思いをして学んだルールだ。どこの誰が何かを犠牲にしたとして、一体誰がその行いを責められようか。この世界で生きていく限り、人間は皆同じ穴のムジナだ。
 ジャックは遊星の手から《スターダスト・ドラゴン》とD-ホイールを奪い、サテライトから出奔した。シグナーを一人手元に確保し、残ったシグナー候補を自らの自由意思でシティへと向かわせる。それがレクスの狙いだった。案の定、遊星は《スターダスト・ドラゴン》という餌に惹かれて、ジャックの後をついて来た。シティへと単身足を踏み入れ、ジャックとデュエルし、赤き竜の出現でデュエルが中断されたところでセキュリティに捕まった。
 遊星は、顔に罪人の証を刻印され収容所送りにされた。本来ならばトップスにて裕福な生活を送っていたはずの人間だ。それがこんな有り様なのだから、運命とは何とも残酷なものだ。
 ……いや、重要なのはそこではない。
 収容所から送られてきたデータを前に、レクスは先ほどからずっと渋面を作っていた。そのデータは現在シグナーの疑いが掛かっている不動遊星のパーソナルデータだ。
 余りにも似過ぎている。神と呼ばれるあの男に。仮面から覗いていたのと同じ青い目。彼の乗る白い機械に酷似した真っ赤なD-ホイール。Z-oneのつぶやいた言葉と一致する生い立ち。
 Z-oneとはつまり、不動遊星のなれの果てである。そんな突拍子もない考えがレクスの頭に浮かんだ。
 Z-oneは、自分たちがどこの時代から現在世界に来たのか、具体的な年数を決して明かしてはくれなかった。未来を破滅させたモーメントの大暴走は、この先いつ起きてもおかしくないのだ。もしかしたら、既にこの世界にZ-oneになり得る人物が誕生しているのかもしれない。
 あれは遊星の子孫か。別人か。それとも……本人か。しかし、本人だとするなら、遊星はZ-oneとして不動博士たちの死に関わってしまったということだ。つまりは親殺しだ。レクスには到底受け入れることはできない。
 少なくとも、Z-oneが何らかの形で遊星と深い関わりがあるのは事実。ならば、この時点で遊星に手を下すだけでZ-oneに大ダメージを与えられる。仮に彼が遊星本人だったのなら、その瞬間Z-oneは消滅してしまうだろう。彼が今まで消し去ってきた事象と同じように。
 だが、ジャックの証言によると、遊星の腕にもシグナーの証である竜の痣が浮かび上がっていたのだという。
 遊星もまた、ドラゴンに選ばれた人間。ジャックと《スターダスト・ドラゴン》の目に狂いがなければ、遊星は本物のシグナーの可能性がある。一時の気の迷い、確証のない情報に踊らされて、地球上にたった五人しか存在しないシグナーをみすみす逃してしまうのは無謀過ぎた。

 サテライト出身の遊星の目の前でシティとサテライトの役割を説いてみせた後、レクスは収容所の所長に命じて遊星のみをこの場に残させた。
 キングのことを話題に出そうとも、所長に上の立場の者への無礼を咎められようとも、彼の態度は全くと言っていいほど変わらなかった。
 いざ対峙すると、遊星は不動博士に生き写しだった。後数年も生きれば博士とほとんど見分けがつかなくなるに違いない。
「お前たちは、俺の何が知りたい?」
「全てです」
 単純ながらも、それはレクスが遊星について抱く疑問の全てを表していた。彼がサテライトでどのように育っていったのか。彼はシグナーの資格を有しているのか。……彼は本当にZ-oneとなる人物なのか。
「俺の仲間には触れるな。関係ない」
 だって見当もつかないのだ。仲間を巻き込まないよう願う彼が、いかにして犠牲を肯定するまでになったのか。
 彼の肌に竜の痣は一筋も残っていなかった。それが、この所長を始めとする収容所からの報告だった。しかし、レクスとしては近い将来全ての痣を集めなければならない。何としてでも成就したいある目的のために。
 レクス達の運命は変えられない。それに、赤き竜と邪神のどちらが勝利したとしても、五千年後には再び戦いが繰り返される。この地を、人間たちをいたずらに傷つけることしかできない、無意味で有害な戦いが。
 そうなる前に、シグナー、ダークシグナーを利用し神の力を手に入れる。その力で全てぶち壊すのだ。神が定めたルールを、神のゲーム盤となったこの世界と一緒に。Z-oneのように、過去の事象に干渉するのではない。今ある現在を変えて、破滅の未来を変えてやる。
「お前何者だ」
 分かっている。Z-oneはこの様子を自分の居城で観ている。一言でも彼らのことをレクスが喋れば、待っているのは歴史からの抹消だ。だから、今は言わなくてもいい。
「私は、ネオドミノシティの発展と世界の安寧を夢見る者に過ぎません。ただ、存在の必然においては、一方を生かすために――」
 何らかのヒントを遊星に示す、ただそれだけでいい。
「一方を生贄にすることも厭わない」
 
 ――未来は必ずこの手につかむ。自分なりのやり方で。

「生贄だと」
「……例え話です」
 遊星の青い目が、剣呑な光をたたえてレクスをにらみすえる。それを真っ向から受け止めて、レクスは底知れぬ微笑みを返した。


(END)


2012/03/21
作品名:水の器 鋼の翼4 作家名:うるら