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【帝人】自分勝手の憂鬱【誕生日おめでとう】

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 その日、早朝から既に帝人はご機嫌だった。
 何故ならその日は前々から父、静雄にお願いしていた遊園地に一緒に連れてってもらえる日だったからだ。
 興奮して寝付きだって悪くなる。それでも寝不足で台無しになるのだけは嫌だったから頑張って無理矢理寝たのだ。その代わり朝早くから自然覚醒することとなったが。

 それなのに。

「悪ぃ、帝人。トムさんから急な呼び出し入っちまって、ちょっといかなきゃ行けなくなった。」
「え?」
 残酷なる宣告を下された帝人はその場で思考を停止した。

 だってあんまりだ。

 その日のお出かけは一カ月も前から計画してあって、それはつまり一ヶ月間ずっと楽しみにしていたということ。
 しかも唯のおでかけではなかったのだ。

 今日は帝人の誕生日だった。

 そのことを静雄は知らない。実の父親で面倒を見てくれているといっても、彼が帝人のことをよく思ってないのを知っている。だから、祝ってくれなくとも、一緒に居てくれるだけでいいという些細な願いを抱いてこの一カ月を帝人は過ごしていたのだ。

 それなのに。

 こんなのはあんまりだと帝人は思った。
「ホント、ごめんな。遊園地はまた今度行こう。」
 だけれど、仕事が大切だということも分かっている。心から申し訳なさそうな顔で頭を撫でる父に、我儘を言うこと等出来はしない。
「しょうがないです。いってらっしゃい、しずおさん。」
 天国から地獄へ落とされたような帝人の嘆きぶりに静雄自身心を痛めたのだろう。そうだと、名案だとばかりに声を上げた。
「そうだ!なんだったらセルティと行ってきたらどうだ?予定聞いてやるよ。」
「いえ!いいんです!気にしないでください。また今度つれてってくれればいいので。」
 冗談ではなかった。
 あまりにも嬉しかったから、帝人はセルティにもこのことを話してしまったのだ。誕生日に静雄に遊園地に連れてってもらうのだと。だから岸谷宅での誕生会はできないのだと。それなのに、セルティに知られてしまったらあまりにも自分が惨めだ。幼い帝人にだってプライドはある。
「おしごと、がんばってくださいね。」
 悲しみを笑顔の裏に圧し隠し、帝人はそれだけ言って静雄を仕事に送り出した。

***

 セルティは張り切っていた。
 何て言ったって今日は帝人の誕生日だ。自分の実の子同然に可愛がっている彼女にしては喜ばしい日であることに変わりはない。
 ただ、当日の今日は静雄と父子水入らずで過ごしたいと言うので、若干不本意であったが、その次の日を予約した。その代わり誕生会では思う存分に祝福してやる心づもりである。

 だからそのための材料を大量に買い込むために新羅と買い物へ来たのだ。
 現在、新羅はスーパーで買い物に、目立つセルティはその前で待っているという構図である。これは本人たちにとってはなんらおかしなものではないのだが、傍目には都市伝説が大型スーパーの前で佇んでいるという現象はシュールに映るようで、ちらちらとこちらを窺う視線がある。彼女にしてみれば大量の荷物を運ぶための足にすぎないのだが。そもそも白衣の優男と都市伝説が一緒に買い物している方がシュールだろう。

「あ?セルティじゃねえか。こんなとこで何してんだ?」
 しかし彼にとってはそれ以外にも、友人だからという理由が存在する。だから、奇異の目で遠巻きに見ているだけしかできない群集とは違って彼女に声を掛けることができた。
 普段なら、彼女も同様に彼――静雄に手を振り、同居人が帰ってくるまで他愛の無い話に興じることは歓迎すべきことだ。しかし、今は違う。何故なら静雄は今ここに居るはずがないからだ。
 それゆえ、彼の声で話しかけられた時は正直驚いたし、振り向いてその姿を認めた時は信じられない気持だった。
「買い物か?」
 太陽に輝く金髪、バーテン服にサングラス。間違いなく本物の平和島静雄だった。
 何故?
 セルティはPDAを構えることも忘れて立ち尽くす。
「セルティ?」
 名を呼ばれて漸く我に返ったセルティは慌ててPDAに文字を入力した。
『お前、何でここに居る?』
「は?なんでって……。」
『帝人と遊園地に行くんじゃなかったのか!?』
「ああ、急な仕事が入っちまってな。」
 煙草を取り出し、何でもないように語る静雄。事実、彼にとっては些細なことなのだろう。
 我儘を言わない帝人が、一か月も前からしつこくしつこく念押しした願いも些細なことなのだろう。
 無い頭に血が上ったような気がした。
『帰れ!!今すぐ帰れ!!』
「何だよ、どうしたんだセルティ?」
 静雄が戸惑っているのが空気で伝わる。それがまた一段とセルティには腹立たしい。
『帝人は!?あの子を置いてきたのか!?』
「ああ……。」
『ふざけるな!!帰れ!!』
「ホント、どうしたんだよセルティ?」
 眉根を下げ、本格的に静雄が困惑し始めたその時、大荷物を両手に提げて新羅が戻ってきた。
「ただいま、セルティ。ってあれ?静雄君?何で君がここに居るの?」
 静雄がここに居るのがよほど以外らしく、セルティ命な新羅にしては珍しく激昂している彼女には気付かずに静雄に首をかしげて見せた。
「ああ、仕事で帝人との遊園地は中止になったんだ。」
「へぇ、ああそれでセルティがこんなに怒ってるんだね。」
 訂正。新羅はちゃんと気付いていたらしい。
『新羅!お前からも言ってやってくれ!』
「うん、静雄君が悪いね。」
「お前はなあ……。」
「いやいや、今回はセルティ関係なしに僕の意見。帝人君が今日のお出かけをあんなに楽しみにしてたのに仕事を優先するなんて酷い話だよ。」
「そりゃ悪いと思ってる。けど仕事なんだしゃーねーだろ。帝人だって分かってくれてる。」
「本当に?」
 真正面からその瞳を向けられて、静雄は言い淀む。
「静雄はさ、まさか知らないなんてこと言わないよね?」
 話が変わった。普段ならそれだけで苛立つ静雄だが、新羅の真っ直ぐに突き刺さる視線がそれを許さなかった。
「何を?」
 再びセルティの怒気が膨れ上がる。それを宥めながら新羅が続ける。
「今日が何の日かってこと。」
 何の日かと聞かれても静雄に覚えはない。
「なんかあったか?」
 静雄にとってはただの平日だ。しかしそれは次の新羅の一言によって一変する。
「今日は帝人君の誕生日なんだよ。」

ぐしゃ

 静雄の手の中の煙草がその形を変える。
「父親である君が、知らなかったなんて、そんなことないよね?」
 静かに新羅がサングラスの奥で瞠目する静雄を責める。
「ね?」
 静雄は踵を返し即座に駆けだした。

***

 ドタドタと慌ただしい足付で自身のマンションの階段を駆け上がる。
 トムに仕事を欠席することは既に走りながら伝えた。

「帝人!!」
 ドアを壊す勢いで自宅に転がりこみ、愛しい幼子の姿を探す。
 リビングで丸くなる小さな身体がピクリと動き、ゆるゆると顔を持ちあげた。
「あ、しずおさん。」
 小さく名を呼ぶその口が幽かに戦慄き、自分を見あげるその眼は濡れていた。泣いていたのだ。
「おかえりなさい。早かったですね。どうかしたんですか?」