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【帝人】自分勝手の憂鬱【誕生日おめでとう】

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 早口に形式的な挨拶を返すその心中では如何ほどの感情が渦巻いているのか。
 誕生日に我が子を置いて仕事に行く父親。否、誕生日という特別な日であることすら忘れていた。知らなかった。
 最低だ。
「お前、今日誕生日なんだって?」
「え?」
 何故?
 驚きに見開かれた瞳がそう問いかけていた。
「新羅から聞いた。ってかお前も教えろ。俺はお前の事まだ何にも知らないんだから。」
 そうっと頭を撫でるその掌は暖かくて、悪意なんて欠片もない。
「そうすりゃ俺だって休み入れたのに。」
だからこそ余計帝人は傷ついた。
 ほろり、と帝人の心のどこかが欠けたような気がした。
「たいせつな……日だったんです。」
 帝人の視界が滲む。
「そうか。」
 ダメだ。ここで泣くべきではない。
 すぅと息を深く吸う。
「だから……だからそんなかんたんにウソをつかないでください。」
「嘘?帝人、俺は嘘はつかない。」
 そうだろう。静雄は嘘はつかない。いつも正面から彼が思う真実を述べる。それが幼い子供の心を抉ると知らずに。
「しずお……さんは、多分うそつきです。」
「帝人、だからな――」
「しずおさんは!!」
 幼い怒声に静雄の声はかき消される。
「しずおさんは、多分知ってても約束をやぶりました。今日は、びっくりして帰ってきてくれただけです。」
「そんなことはねえ。」
「ウソだ!!」
 否定を更に強い否定で跳ね返されて静雄は言葉に詰まった。
「何で嘘だって思うんだ?」
「ばかにしないでください。
 じゃあ何で今日休んでくれなかったんですか?あんなに楽しみにしてたの知ってたのに。たんじょうびなの知らなかったから?知ってたら連れてってくれた?ちがう。知っててもしずおさんは行く。」
「そんなことない。」
「ある。」
「ない!」
「ある!」
「いい加減にしろ!」
 大声で怒鳴りつければ、帝人は口噤んだ。小さな子供にキレることは滅多にないが、苛立たないわけではない。はあと殊更大きな溜息を吐いて怒りの大部分をある程度発散させる。
 そうやって自身を落ちつけながら、再度なあ帝人と声を掛けた。
「っ」
 しかしその先は出て来なかった。
 帝人は泣いていた。言葉を封じられたため、拳を力いっぱい握りしめて。
「帝人……。」
 言いすぎたかと焦りで静雄は帝人に手を伸ばす。
「………ぃ」
「え?」
「守れないやくそくなんて、さいしょからしないでください!!」
 パシンと乾いた音がやけに響いた。
 小さな手が紡いだ嘆きは、静雄の手を僅かに赤くすることすらできなかった。
 また一筋、帝人のまろい頬に雫が流れる。
「………。」
「………。」
 瞬きするたびに飴玉のような瞳から透明な水が追い出される。
 じり、と帝人の足が一歩後ろに踏み出された。それが合図。帝人は俺の横を通り過ぎ、外に飛び出して行ってしまった。

***

 臨也が池袋を訪れるのは久しぶりだった。
 立てこんでいた仕事を終わらせてからの人間観察。
「ま、一種の御褒美ということで。」
 誰に言うでもなく一人呟く。因みに同じことを波江にも言ったところ、一瞥すらも寄こさずスル―された。これなら冷たい言葉でも何か一言があった方がいいと思ったとか思わなかったとか。

閑話休題

「あれ?」
 歩きながら本格的な計画を煮詰めていたら、とぼとぼと、見知った小さな人影が歩いているのを発見。
 帝人だった。臨也の天敵の一人息子。臨也が騙して生まれた愛しい人間。
 それが何故こんなところを一人で歩いているのか。
 確か今日は帝人の誕生日だったはずだ。今頃は静雄をはじめとしてセルティや新羅に盛大に祝われている筈だ。
 なのに何故?
「み~かど君!」
 哀愁漂うその背中に、軽やかに声を掛ける。彼は一瞬ビクリと身を震わせて、声を掛けた相手が臨也だということを悟るとほっと肩を下ろした。
「臨也さん……。」
「どうしたの帝人君?一人?シズちゃん……は…居ないね……。」
 「シズちゃん」という単語にこちらが驚くくらいの反応を見せた帝人。
 成程。分かりやすい。
「本当にどうしたの?」
 しゃがんで視線を合わせ、小刻みに震える肩を摩ってやる。その震えが寒さによるものではないことは承知だ。
「……。」
 帝人は俯いたまま何も語ろうとはしない。
「場所変えようか。帝人君喉渇いてない?ジュース奢ってあげるよ。」
 ね?と優しく、しかし強い口調で促せば、弱弱しいながらもしっかりとした首肯を返してきた。

***

 失敗したと静雄は思った。
 静雄はすぐに帝人の後を追いかけるべきだったのだ。そして幼い彼の誇りを蔑にしたことを謝り、切り刻まれた幼い心を労わってやらなければならなかった。
 なのに静雄はそれをしなかった。
 何が帝人の逆鱗に触れたのか分からなかった。
 彼はあまりにも帝人の気持ちに無頓着だった。それは帝人が子供にしては聞き分けがよすぎたのも災いした。
 だから彼は素直に謝り、祝いなおせば帝人は許し、喜んでくれると思ったのだ。
 勘違いも甚だしい。
 帝人にしてみれば断れるのなら何故最初から断わってくれなかったのか。誕生日だと知らなかったから?そんなのは言い訳だ。
 だが静雄はそれすら思い至らなかった。
 やっとのことで帝人を追いかけなければと気付いた時には遅すぎた。帝人の姿は近場にはもう見受けられなかった。

 しかしそのままで居ることは出来ない。

「それで?僕たちの所に来たわけは?」
「あいつが行くような所はお前のとこしかねえ。」
「ふぅん?」
 新羅の返しは静雄が思っていた以上に冷たく、平坦だった。
 セルティはかいつまんだ事情を聴いて即行動を起こしたからもうこの場にはいなかった。
 静雄も居ないのならば要はないとばかりに去ろうとしたのだが、新羅がそれを押しとどめた。思わぬところから妨害を受けて、故に静雄は苛立っていた。
 しかしそれ以上に新羅は怒っていた。
「あのさ、いい機会だから聞くけどさ、静雄は帝人君を何だと思ってるの?」
「何って……。」
「人形?ペット?」
「んなわけあるか!!」
「ああ、良かった。流石にそこまで外道じゃなかったんだね。」
「てめえ!!」
「でもそれならさ――」

「それなら何で帝人君の気持ちを考えてあげなかったの?」

「!?」
 頭に上った血が一気に下がった。
「え……は…?」
 新羅の視線が静雄を射抜く。
「考えてあげてた?帝人君の事。」
「……………。」
 何かを言わなければと口を開くが焦りが上滑りして結局何も出てこない。
「考えてあげたことないでしょ?」
 新羅は溜息を吐いてソファを立った。
「君はいつもそうだよね。自分の事ばかりで周りを見ようとしない。」
 静雄に背を向けたまま、彼は続ける。
「『自分を苛立たせる何かが悪い』『こんな力があるのがいけない』
 でもさ、その時のその人の気持ちって考えたことある?
 僕や臨也はいいよ?臨也はあの通りの反吐野郎だし、僕は僕とセルティ以外に興味はない。
 でも帝人君は違う。」
 首だけで振り返って新羅は静雄を見る。興味ないと言いつつもその瞳は真剣そのもの。