【帝人】自分勝手の憂鬱【誕生日おめでとう】
実の息子の誕生日を気にかけもしない奴よりはよっぽどマシだと思うけどね。」
はっと飲み込んだ息と一緒に怒りも飲み下す。
「帝人君さえ許してくれればすぐにでも俺は行動する。」
静雄は愕然として帝人を見、帝人は俯きそれから逃げた。
「帝人……。」
どうなんだ、やめとけ、そいつは碌でもない、ふざけるな、言いたいことは溢れている。でもどれもここで言うべきことじゃない。
ここで選択を間違えれば帝人は永遠に手の届かないところへ行ってしまう。それは臨也は関係ない。
そしてそれは予感ではなく確信である。
「帝人、ごめんな。こんなダメな奴が父親で。
今だって真っ先にお前のところに行ってやるべきだった。なのに俺はノミ蟲を優先しちまった。
全く自分でも嫌になる。いつだって俺は自分勝手なんだ。
だから、お前が俺じゃない奴が父親がいいって言うのは仕方ねえと思う。そいつと暮らしたいって言うなら俺には止められない。
でも、でもな、帝人。これだけは聞いてほしい。俺はお前の事が好きだ。ホントだ。約束もたくさん破ってきたけど、これだけは信じてくれ。」
語りかけている間、決して帝人から目は逸らさない。
「しずおさんは……ぼくがよそのうちの子になった方がいいですか?」
「いいわけあるか!」
即答したことがそれほど意外だったのか、小さな子供の大きな目が見開かれる。
「帝人、お前がどう思ってるか知らねえが、お前は俺の子だ。お前が望んでくれるなら今度こそお前を幸せにする。今度は破らねえ。」
「本当ですか?」
「ああ。」
「はりせんぼんですよ?」
「分かってる。」
「しずおさん、」
静かに射抜く視線。
「しずおさん僕は怒ってます。それはなぜだと思いますか?」
「…………。」
沈黙。臨也さえも口を挟まない。
「正直分からない。でも多分、この分からないことにお前は腹を立ててるんだと思う。」
最後にごめんなとつき添える。
ごめんな。情けない父親で。
「臨也さん。」
「ん?なあに?」
「ありがとうございます。でもやっぱりぼくはしずおさんの子どもでいたいと思います。」
「そう。」
「ごめんなさい。」
「別にいいよ。」
よっと勢いをつけて臨也はベンチから飛び降り、静雄のすぐそばを悠々とすれ違って公園から出て行った。
「でも気が変わったらいつでもおいで。君なら大歓迎だから。」
「誰がやるか!」
はははと背後から青空の笑い声が残された。
***
いつの間にか空は朱く色づき始め、一日がゆっくりと終わりを迎えようとしていた。
「しずおさん。」
「ん?」
「ごめんなさい。お仕事だったのに。」
ちらりと見ると不安げに俯いた帝人のつむじ。それを吹き飛ばすべく静雄は左手に収まる小さな手に僅かに力を込めた。
「気にすんな。お前の方が大切だ。」
臆面もなく素直な気持ちを吐き出せば、帝人は弾かれたように静雄を見あげ、そしてくしゃりと笑った。
その笑顔を、静雄は生涯忘れないと誓った。
この温もりが傍にあることを感謝して。
作品名:【帝人】自分勝手の憂鬱【誕生日おめでとう】 作家名:烏賊