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あのときのようにもう一度

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(自分の体がおかしくなったのは何時からだろうか……。
もう、それすらも覚えていない位にこの苦しい状況がずっと続いている。
いっそうのこと、俺を殺すくらいに誰か責めてくれればいいのに…………。)

少年は一人部屋に引きこもり部屋の隅で静かに泣いていた。
静かに、と言うのは決して声を噛み殺している訳ではない。
声が出ないからなのだ。

少年こと狩屋マサキ、現在高校1年生は学校などの様々な人間関係により過度なストレスがかかり、自分ではそのストレスが整理しきれなくなった。
その結果、自分の身体にストレスが形作り表れてしまったのだ。

(初めの頃は何ともなかったんだ。)

彼はまた昔の事を思い出す。

(そう……。霧野先輩に誘われて…………同じ高校を受験して……………。合格…して…………。サッカー部にまで入ったんだ…。
大好きな霧野先輩とまた大好きなサッカーができて…………俺は……。
俺は幸せな筈だったんだ……。
なのに…なんで……………っっ!!)

彼は誰もいない部屋の端で自分の肩をギュッと強く抱きしめた。
少年の住んでいる近くの公園からは小学生達の楽しそうな笑い声が聞こえた。

「ケホッ…………っっ………くっ……………!!」

苦しいはずなのに声に出して“苦しい”と言えない。
誰かに気づいて欲しいのに“気づいて”と言えない。
誰かに助けを求めたいのに“助けて”と叫べない。

(クソッ……何なんだよっ!!ほんとに………何なんだ!!!)

そうして彼の身体にはまたストレスという名の負担がかかっていく。
彼の自問自答が彼自身を追い詰めている事に気付かぬまま、また彼は底無しの沼に堕ちていく。






――――――ブーッブーッ―――――――

部屋に響くバイブ音。

(あぁ……今日もか………。)

“今日”も“今日”が来たという合図のそれ。
マサキはそれを手に取りディスプレイに映る名前を、先程流れきらなかった涙を目に溜め込んだ瞳で見つめた。

――――霧野蘭丸―――――

携帯に名前を登録した頃は『電話帳にも“先輩”を付けろ!』と五月蝿く言われた。
しかしそんな思い出も今ではもう…昔のことのように感じるが。

霧野蘭丸はマサキが学校に行かなかった初日からずっと電話をし続けた。
最初の一回目は電話に素直に出られた。
だが、次第に休む回数が増えるうちに彼の電話に出られなくなっていった。
電話に出ても何て言っていいのか……。
電話に出たとしても何を話せばいいのか……。
マサキにはそれが分からなかった。
そして、留守電には朝は決まって『おはよう!狩屋!!今日もいい天気だな!今日のサッカー部のメニューはたしか・・・・』など、今日の予定を30秒という長くも短い秒数に“これでもか”と言うくらいに話をつめこんで必ず『行ってきます!』と話を締めくくり留守電の時間が切れる。
そして今日も彼はあいさつをして電話を切った。

(いってらっしゃい……霧野先輩………。)

心の中で決まってマサキはそう答える。

今ではもう、そんな簡単なあいさつすら出来ないマサキはまた自分の肩を更に強く抱き締める。
頭に浮かぶのはもう“ごめんなさい”の謝罪の言葉だけ。
肩に力が入り、身体が震えた。
だが、1分もしないうちに疲れ、力を入れていた手を離し、ベッドへと向かい、ドサリッと倒れ込む。

(1人なんだ…独り……なんだ………。
誰も助けてはくれない……。
そうだ…。
叫んでも…気付かない……。
皆…上っ面だけの友達………。
人間なんて…そんなもんなんだ………。
そうでしょ?……霧野先輩………。)

目をつむり、意識ごと暗闇へと沈めていった。















―ピンポーン…―――

(………………)

―――ピンポーン……―――

(誰だよ…………。勧誘なら早く帰れよ……。)

―――ピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポーンッッ―――

(あぁっっ、もう……ほんと誰だよ!?)

苛立ちがマサキを襲う。
マサキはとりあえず相手の顔を見ることにした。
部屋の内側から様子を伺う。

(………………っっ!!!!霧野…先輩っっっ!!!!!!)

まさに開いた口が塞がらないとは今のマサキの事をいうのだろう。
驚きのあまり固まっている最中にも蘭丸は何度もインターホンを鳴らし続けた。

「かーりーやーっ!居るんだろーっ!?」

しまいには運動部ならではの大きな声でマサキの事を呼び、ドアのぶをガチャガチャと鳴らしながらマサキを急かした。

(あーっ、もう、この人はほんとにっっ!!)

マサキは蘭丸が突然押し掛けてきた――襲撃とも言うべき行動への怒りよりも、相変わらずの性格の変わら無さへの呆れの方が大きくなり、マサキは蘭丸の言う通り素直にドアを開けた。

「うおっ!?お、おー…ビックリしたー。お前…急にドア開けるなよ!
ビックリしただろっ!?」

“知りませんよ、そんなの。”

あの頃の――何時ものようにマサキはそう言い返したかった。
声が出せない言葉達はただ沈む。
深く深く深く…マサキの中へと沈んでいく。

(あ…………忘れ…て……た……………。)

「………狩屋…?」

マサキはうつ向く。
蘭丸は何も言わずにうつ向いてしまったマサキを不思議に思い、視線を会わせようと腰の位置を低くした。

「…………えっと……ど……した…………?」

蘭丸には分からなかった。
マサキがどんな事を考え、どんな表情をしているのかが。
だから彼は知りたかった。
知りたくて今日、彼はここまで来たのだ。











俺は中学時代狩屋に出会い、共にサッカーをプレーし、最高の思い出ができた。
だからもう一度、狩屋と一緒にプレーしたくてアイツを自分と同じ高校に誘ったんだ…。
しかし理由はそれだけではない……。
俺はその時から既に狩屋の事を恋愛対象として“好き”だったんだ…。

(狩屋と離れたくない……)

言えるわけない。言えるはずがない…。
だけど心からそう思った。
だから、狩屋が同じ高校を受験すると言ってくれた時は死ぬほど嬉しかった。

高校生活が始まるとアイツは直ぐにサッカー部へと顔を出した。

(1年間……っ。1年間…お前と会わずにずっと………っ……ずっとっ………頑張ってきたんだ…。お前とこうしてっ…もう一度サッカーをするために……っっ!!)

そうして、見事に狩屋と俺は再会を果たした。
そして俺達はまたサッカーの世界の魅力へと二人して飲み込まれていったんだ。



何時からだったのだろうか…。
アイツが独りで悩み、独りで沢山のものを抱え込んで居たのは。

(俺には……分からない………っ。)

狩屋が学校に来なくなってから俺はただ情けない自分を攻め続けることと、狩屋に対して何時も通りの俺を演じ続けることしか出来なかった。
情けなくて、情けなくて…。
何度も自分の唇を噛みきった。
訳の分からないストレスで体調も崩した。
それでも、アイツの受けている孤独やストレスに比べたら……。
そう思うだけで俺は“俺”を保ち続けることができたんだ。
だけど……………。


(狩屋……。もう……1年が…終わるんだ……。
俺…来年、卒業……なんだよ……。
作品名:あのときのようにもう一度 作家名:悠久