あのときのようにもう一度
だから………だからもう一度…………っっ………もう一度………だけ……………っ！！)
そう思ったら足が勝手にアイツが一人暮らしをしているアパートへと向かっていた。
そして現在に至る。
脳で考えるよりも先に感情だけが前へ出る。
「あ……いや……その…………。
………………ご、………め……んっ…………。
お前が……こんなに…嫌がる……とは………思って…無くて……。
ほんと……ごっ……めっっ……うっ……うぅっ……。」
(狩屋……狩屋狩屋っっ！俺は…どうすれば良いんだ……。どうすればっ……教えてくれっ…………お願いだ……っ！
俺は…分からないんだっ……!!
狩屋!!!!)
蘭丸はポロポロと涙を溢した。
蘭丸の瞳から溢れだした涙達は頬に一筋の道を作りながら、アスファルトに染みを作った。
マサキはアスファルトにできた染みを見て始めて蘭丸が泣いているのに気が付いた。
「………っっ!?」
驚きで肩が跳ねる。
(なんで泣いてるんですか!?なんでそんなに…！)
しかしマサキは心の中で思うだけであって実際にその疑問を声にすることはなかった。
(声が出ないんならっ………！)
マサキは一度ギュッと拳を握り締めてから意を決した様にして泣いている蘭丸を見た。
そして、涙を拭っている蘭丸の手を掴み勢いよく自分の方へと引き寄せた。
「………えっ!?」
高校生になっていつの間にか蘭丸よりちょっとだけ大きくなったマサキによりギュッと抱き締められた蘭丸。
考える間もなく顔が赤くなる。
(先輩……霧野先輩………。)
マサキは蘭丸を片手で抱き締めながら器用に利き手で携帯を取りだし文字をうち始めた。
「ひっく……うっ……か……りあっ……うっ……？」
『大丈夫ですか？』
「なんでっ……しゃべら……ないっ……んだ……？」
しゃくりあげながらも懸命に蘭丸は話す。
『声が出ないんです』
「……っっ!!!!」
『とりあえず、そのひどい顔どうにかしましょうね…』
「うるさ…いっ！……ひ…とがっ……心配してっ……言ってやってるっ……のにっ……！」
マサキは携帯を閉じまたパーカーのポケットへと戻した。
そして蘭丸を部屋に入るように促した。
二人でマサキのベッドに腰を下ろす。
蘭丸は先程に比べればかなり落ち着いたようだった。
『なにか飲みますか？』
相変わらずのコミュニケーションの方法に軽く笑いながら蘭丸は「いや、大丈夫だ」と答えた。
「なぁ…狩屋……。
単刀直入に…聞いて良いか……？」
蘭丸の言葉にマサキはコクリと頷いた。
「なんで……学校に…来なくなったんだ……？
答えたくないなら…構わないんだが………。」
うつむきながら蘭丸は自分の手を見詰めた。
カチカチと携帯をいじる音が部屋に響くようだった。
『初めの原因なんか…分からないです。
ただ辛くて辛くて仕方なかったんです…。
何から逃れたいのかも分からないまま、全部を投げ捨てたんです……。
それでも…毎日が辛かった……。
吐き気が止まらなかったんです……。
寂しくて悲しくて……沢山涙が出るかと思ったんです……。
でも、涙なんか出なかった…。
一粒も流れなかった…。
だから…俺は“普通”じゃないんだって……思ったんです……。
そしたら今度は、そう思ってしまった自分が悲しくなって……。
………毎日が本当に…辛いんです……。
そのせいで…声も失いましたし…ね……。』
携帯に打ち込まれた文字。
ただのデジタルな文字。
それでも、マサキがその携帯で文字を打っている姿や携帯の画面を蘭丸に見せている手を見るとマサキは小刻みに震えていたのだ。
「……………………。」
なんて言えば良いのかが分からない蘭丸。
ベストな答えを探すがなかなか見当たらない。
だから―――
「狩屋…。ありがとう……。話してくれて…ありがとう……。」
――ありのままの気持ちを君に伝えよう――
「俺は…中学の時からずっと…お前の事が好きだった……。
正直…自分がそんなことを同姓から言われても…嬉しくはない……。
だけど俺は…お前の事が…ずっとずっと好きだった……。」
蘭丸は太ももの上で握り締めていた拳を更に強く握り締めた。
爪が肌に食い込みのを感じながらも蘭丸は話続けた。
「だから……すまない……。
好きなのに…何も気づいてやれなかった…。
好きなのに…どうしてたら良いのかが分からなかった…。
好きなのにっ……好きだからっ…、お前から嫌われたくなくて…っ……何もできずに今日までずっと……何もっ……っっ!!」
乾いたはずの瞳からはまた大粒の涙がポロポロと零れた。
そんな蘭丸にマサキは静かに近寄りそっと抱き締めた。
「……っ！」
蘭丸は驚きながらおずおずとマサキの背中にそっと腕を回した。
「狩屋っ……お前は…一人じゃ…っっ…独りじゃないっ…んだっ！
少なくとも…俺は…っ……お前の“味方”だっ……！
だからっ……何かあったら…俺に…っ…俺に言えっ！
アドバイスとか……俺にはっ…出来ないかもしれないがっ……それでもっ…話…聞くくらいならっ…俺にだって…出来るっ…から！！
だからっ…もう……泣かないでくれっっ!!」
マサキの背中に回していた手に力がこもる。
そしてマサキもまた驚きで肩が震える。
(あぁー……泣けた…んだ……俺。)
マサキの頬に流れる一筋の涙。
(やっぱり……すげぇ…な……。俺の大好きな先輩は……。)
嬉しくて笑みが零れる。
声は出ないが暖かな空気が口から零れる。
(ありがとう…先輩……。ありがとうございます…霧野先輩……。)
――届かなくても貴方に伝えよう――
マサキはまた携帯を握り文字を軽やかにうち始めた。
『先輩、俺はまだ…完璧にはあの頃のようにはなれません。
でも、少しずつ…時間を……失ってしまった時間を取り戻したいと思います。
だから……。』
“俺と付き合って下さい”
マサキは柔らかく微笑みながら言った。
正確には、声が出ていないため口パクなのだが、確かに蘭丸には伝わったのだ。
蘭丸の顔からは止まりかけていた涙が再びあふれ出す。
「狩屋っ…狩屋っっ！ありがとなっ……っっ！」
そうして２人はまた強く抱きしめ合い、互いにまた相手のぬくもりを感じ、確かめあった。
そしてマサキが声を取り戻し、蘭丸と共にサッカーをするのは近い未来の話だ。
作品名：あのときのようにもう一度 作家名：悠久