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魔王と妃とその後の魔界

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それは、ある日の昼下がりの事。
 魔王城の執務室にて。
 陛下宛ですよー、と軽い口調と共に届けられたそれに目を通し。
「………ふん」
 つまらなそうに鼻を鳴らし、ラハールはその書状を放り投げた。
「何だったんですかー?」
「身の程知らず共からの挑戦状だ」
 エトナの問いに、簡潔に答える。
 内容は、端的に言えば宣戦布告。
 魔王ラハールを倒して新たな魔王になろうとする輩の戯言だった。
 戴冠し、魔界を支配した魔王ラハール。
 大多数の悪魔達からは認められ、概ね好意的に受け入れられた現在ではあるものの。
 反対派の連中も少なからずいたらしく、時々こういう“身の程知らず共”が出てくるのだ。
 まずこいつらをどうにかせんと、天界の連中にでかい顔はできんな、と内心で溜息を吐いて。
「で、どーすんです?」
「ああ、叩き潰してくる」
 ラハールの返答は軽い。
 そこいらに散歩でもしてくるといったノリだ。
「もしかして、一人で行くつもりですか?」
「ああ、暴れてくるぞ」
 エトナの言葉に、にやりと笑ってラハール。
 ここ暫く書類仕事が続いていたし、ストレス解消のつもりだろうか。
 そう思いつつ、エトナは呆れた様に溜息を吐き。
「まーいいですけど。…フロンちゃんには知らせますか?」
「いや、必要無い。ちゃっちゃと済ませてくる」
 ひらひらと手を振りつつそう答え。
「一応時と場所の指定付きだからな。まぁ、乗ってやろう。その間は城を任すぞ、エトナ」
「はいな、陛下♪」
 ラハールの言葉ににぱっ、と笑いながらそう返すエトナに、
「………しかしお前が陛下呼びすると何か企んでいる様で落ち着かんな」
「失礼ですねー。じゃ、やっぱ暫くは殿下呼びって事で」
「…貴様、まだオレ様を舐めているだろう」
「殿下を舐めるのはフロンちゃんの役目じゃないですかー。……特に下の方とか」
「セクハラかよこの野郎」
 今日も魔王とその腹心は相変わらずの様だった。




 夜半の寝所で、ラハールが口を開く。
「フロン。明日は少し出てくる。お前は城で待っておれ」
「え、お出掛けですか?」
「うむ、ちょっとな」
「…わたしはお留守番ですか?」
 夫婦となってからは共にベッドで寝る様になり、寝る前に軽い会話を交わすのは恒例となっていて。
 そのいつも通りの流れでさらりと出したラハールの言葉に、フロンが不満そうな顔をした。
「大した用事ではないから、すぐに帰ってくる」
 そう言うラハールに、フロンは眉尻を下げ、不満そうな顔から不安そうな顔へと変化させる。
「………はい………」
 察してはいるのだろう。
 何度かあった事だ。
 だが、自分が何を言っても相手側が止まる事は難しいと解っているし、これも魔王の仕事であるのだから、と。
 きゅ、と口を結んで黙り込むフロンに溜息を吐き、
「…そんな顔をするな。オレ様がどうにかなるとでも思っているのか?」
「いいえ、でも…」
「加減はしてやる」
 殺してしまっては下僕にできんからな、と物騒な事を言いながら、フロンの髪を安心させる様に撫でる。
 内容にそぐわない優しい声と、優しい手つきとに、フロンの表情が緩んだ。
 その事にホッとして、
「お前は何か用事でもあったか?」
「いえ、特には…。でも、教会の方には顔を出そうと思ってます」
「教会か…。お前もマメだな。どうだ、悪魔達は集まってくるか?」
「ええ。お城で働いている皆さんとか来てくださいますよ。気まぐれにでしょうけど、たまに見た事の無い悪魔さんもおいでになります。…今は殆どの部屋が、子供達の住居になっちゃってますけどね」
 フロンが苦笑しながらラハールに答える。
「まぁ、元々マデラスの様なガキがいたのだ、仕方あるまい」
 ラハールも苦笑した。
 フロンが魔界に住む様になり、本人はそこそこ馴染んだと言っていい。
 だが、魔界の住人は天使や天界の事を知らなすぎるから、という事で。
 まず色々と知ってもらう為に教え学べる場所を、と建ててもらったのだ。
 取り敢えず天界っぽく、とのイメージから、教会の形になった。
 そして、そこにいるというマデラスだが。
「流石に引き取り手がいないからと、放置もマズイしな。そういう意味では都合が良かったが…」
 罪を浄化した為に、赤ん坊へと戻り、人生をやり直す事になったマデラス。
 それはいいが、この赤ん坊を誰が育てるのか、という話になり。
 大天使が引き取りましょうか?なんてのほほんと言ったりもしてきたが、周囲の天使達に猛反対されたらしく、だめでした…なんて言いつつなんだかしょんぼりしていたのが印象的だった。
 暫くは城に置き、世話は主にプリニー達にやらせていたが、このまま城で育てるのもどうなのか、と家臣達から意見が出始め、なかなかマデラスの居場所は決まらず。
 そこでフロンの提案である。
 すなわち、教会の中で育てるのはどうか、と。
 その内その話が広まり、好奇心や悪戯心を刺激された子供達が集まってちょっかいを出してきて。
 意外にも居心地が良かったのか、なんやかやでそのまま居ついてしまったのだ。
 その大半に親がいないというのだから、フロンに追い出すという選択ができる筈も無く。
「魔界は親子の情が薄いですからねぇ…。でも、あんなに親のいない子達がいるとは思いませんでしたよ」
 ぷう、と膨れてフロン。
 魔界では、親子の間でも殺し合いは日常茶飯事だという。だが、それは悲しい事だと思うのだ。
 だって、悪魔だって嬉しければ笑うし、楽しければはしゃぐし、宴を開いて会って間もない相手と笑い合う事だってするのだから。
 魔界の子供達は逞しく、親がいなくても気にしない者が多いが、それもやっぱり哀しいと思う。
 その考えが顔に出てしまっていたのか、
「…その事も含めて、お前が“教育”するのだろう?」
 ぽん、と優しく頭を叩かれる。
 声も口調もその手も全部が優しくて、思わずフロンの頬が染まった。
「……はい」
 少しでもフロンが落ち込むと、言葉と温もりをくれるラハールが、フロンはとても好きだと思う。
 同時に自分はそんなにわかりやすいのかしら、と少々恥ずかしくも思うのだけれど。
「大好きです、ラハールさん」
 ラハールにとっては唐突だったろう、返事に次いで、心のままに伝えたそのフロンの幸せそうな笑顔と告白に、
「な、何故そうなった!?」
 未だ不意打ちのそれには慣れず、慌て戸惑い声を上げる。
(……本当に、大好き)
 そんなラハールの姿にそっと心の中で呟いて、フロンはふわり、と花が綻ぶ様に微笑んだ。





 翌日。
「行ってらっしゃいませ、ラハールさん。…お気を付けて」
「うむ」
 ラハールの見送りにはフロンとエトナ。
 フロンの態度と言葉にエトナは色々と察し、
「結局バレてるじゃないですか」
「………………じゃ、城は任せたぞ!!」
「あ、逃げた」
 呆れた様な腹心の突っ込みから逃げつつ、苦笑するフロンの気配が遠ざかるのを感じつつ。
 その足で、日時と場所の指定通りに来てみれば。
「ようこそ、魔王ラハール様。しかし、貴方の天下はここまでです」
 そこに待ち受けていたのは、いやらしい笑みを浮かべそう言う悪魔と。