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魔王と妃とその後の魔界

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 配下なのだろう、色気過剰といった感じの女形態の種族ばかりを揃えた悪魔達の群れ。
 そして間を置かずにそれらの口から放たれるのは、夢、愛、希望、幸せだの温かい心だのとの言葉の数々。
 果ては大合唱となり、その場の空間いっぱいに響き渡る。
「ククク………どうです魔王様?貴方の弱点は調査済みなのですよ!!さぁ、魔王の座を明け渡しなさい!!今なら命だけは助けて差し上げますよ!?」
 悪魔は両手を広げ、高らかに言い放つ。
 調子に乗りまくった悪魔は、勝利を確信した邪悪な笑みで、そこにいた。
 対するラハールは渋面だ。
 腕を組み、その悪魔を不機嫌そうに睨んでから、耳が痛くなる程の大音量の発生源へと目を移す。
 一通り眺め、
「………………フロンの方がかわいいな」
 呟きに、音が止んだ。
 唐突な惚気に、一同が思わずラハールを凝視する。
 あ、やべ、といった感じの表情をした後、わざとらしく咳払い。
 顔がちょっと赤かった。
「で、これがどうした?」
「………へっ?」
 ラハールの面白くなさそうな言葉に、悪魔が思わず間の抜けた声を出す。
「…つ、強がりをっ!!」
 だがすぐさま気を取り直し、自らラハールの弱点をつきにきた。
「清らかな夢っ!!」
「夢?野望の間違いであろう?それに、清らかなもの程穢すのは楽しいものだ」
 悪魔の叫びに、さらりとラハールが言い放つ。
 内心でああ、フロンは穢れんがな、とか思っているが。
 更に穢すよりオレ様色に染める方が愉しそうだしなぁ、とかも思ってたりする。
 …何だか色々と救えない感じだ。
「あ、明るい希望っ!!」
「希望?それを求める根源にあるものは欲望だろうが。それと、明るい場所の影は、より濃いのだぞ?」
 表裏一体とはよく言ったものだな?と笑う。
「熱い正義っ!!」
「悪には無くてはならんものだな」
 概念としては必要だろう、と一人納得して頷く。
「え、永遠の愛っ!!」
「む、愛か…」
 一瞬の間が空くが、
「まぁ、それは慣れた」
 その言葉には、結局今までの中で一番あっさりと返した。
 …さもありなん。
「なっ……!?は、話が違う………!!」
「残念だったな?」
 引き攣り、悲鳴の様な声を上げて後退る悪魔に、にやりと笑うラハール。
 どこの誰が広めたものか。
 明るく、前向きな言葉が苦手というラハールの弱点。
 それらは真実ではあるものの、今の様にご都合な変換やら屁理屈やらで、大抵はかわせる様になっていた。
 魔王に就任して時を経て、色々とタフになっているラハールである。
 愛に慣れたというのは、言わずもがな。某妃の存在の所為だろう、間違い無く。
 もうそれは周知の事実だったりするので、正直リサーチ不足としか言い様が無い。
 一部ではバカップル夫婦呼ばわりされている程なのだし。
 因みに、ムチムチした身体の女が苦手といった弱点の方だが。
 ……まぁ、いろんな経験を経た男は強くなるという事なのだろう、多分。
 先程漏らした呟きが答えの様な気もするが。
「で?それだけか?指定通りに来てやったというのに、つまらんにも程があるぞ。もう少し趣向を凝らせ、趣向を。…貴様もイマイチ威厳に欠けるしなぁ…」
 まじまじと悪魔を見て、溜息を吐く。
 上等なスーツとマントに身を包んではいるものの、正直小物感が漂っていてやる気にならない。
「もうめんどくさいんで、貴様等一気に吹っ飛ばしていいか?」
 ストレス解消に暴れるつもりだったが、どうせすぐ帰るつもりではあったし、と思いつつ、投げ遣りにそう言う。
「なっ……!!くっ、こうなれば……!!」
 ラハールの言葉にこめかみに血管を浮かび上がらせ、悪魔がバッ、と勢いよく手を振り上げる。
「出て来い貴様等!!こいつをぶっ潰せ!!」
 今までの上品ぶった言葉遣いをかなぐり捨て、本性丸出しで悪魔が叫ぶ。
 その叫びに呼応するかの様に、地の底から、繁みの中から、木の陰から、果ては空から。
 多種多様、様々な種族の悪魔達が雄叫びを上げてラハールに襲い掛かってきた。
「おお、いるではないか。最初から量でこい、量で」
 嬉しそうな声を上げ、ラハールが剣を抜き放つ。
 空から勢いよく突っ込んできた悪魔の顔面に真正面から無造作に拳を叩きつけ、横手から攻撃してくる複数の悪魔達を剣で薙ぎ、後ろから迫る無数の刃はマフラーを広げ、蹴散らした。
「うむ、これでこそ戦いというものだな!!」
 ラハールは上機嫌で、間断無く襲い掛かってくる悪魔達を迎撃していく。
 戦闘本能剥き出しでこちらを殺そうとしてくる奴等をぶちのめすのは、やはり楽しい。
 フロンはいい顔をしないだろうが、こちらも悪魔で、魔王なのだ。たまには力を振るい、暴れたい。
 第一反対派の連中は一度叩きのめして力の差を見せた方がこちらの話を聴くのだから、これも必要な事なのだ。
 それにしても、と内心で呟く。
 指定された場には罠などは無く、周囲に森や繁みはあるものの、殺風景な場所であったのだが。
(……よくもここまで隠れていたものだな)
 と、感心さえしつつ。
(まぁ、下僕が増えるのはいい事だっ!!)
 そう結論を出して、好戦的な笑みを浮かべる。
 そして、悪魔達の攻撃をかわし、時に剣で受け、相手の武器をへし折り、その肉体を直に殴り、蹴り飛ばし。
「ハーッハッハッハッハッ!!さぁ!!次はどいつだ!?この魔王ラハール様が直々に相手してやっているのだ!!全力でこい!!」
 テンションが上がりまくって高笑いなどかましながら。
 ラハールは多勢に無勢、という言葉を無視するかの様に、襲い掛かる多数の悪魔達を蹴散らし続けた。


 そんな光景を、遠くの丘の上から眺める一つの影がある。
 影はほくそ笑み、呟いた。
「流石は魔王…といった所か」
 でも、と、低く、笑いを含んだ声で続ける。
「それは油断だと思うよ?魔王様」
 口元が大きく、邪悪に歪んだ。





 その頃。
(…ラハールさんが帰ってきたら、教会に誘ってみようかなぁ…)
 フロンそんな事を思いつつ、城内の通路をぽてぽて歩いていた。
 教会に行く時は大抵一人なのだが、たまには一緒に来てほしい。
 でも子供達の前だと手とか繋いでくれないだろうなぁ、と、ラハールの真っ赤になった顔を想像して、くすくすと笑う。
 ああ、でも、そんな所も好きかも…などと。
 エトナ辺りが聞いたら呆れながらも全力でバカップル認定するだろう事を考えていたフロンの耳に、ぱたぱたという足音が聞こえ。
 振り返れば、駆けてくるプリニーの姿があった。
 そのプリニーはフロンの前で止まり、
「妃様ー。バイアス様がお呼びっスよー」
「え?バイアスさんが?」
 プリニーの言葉に首を傾げるフロン。
 中ボス改め、ビューティ男爵バイアス。
 その正体は最早ラハールに近しい者であれば知っていて当然の、最早暗黙の了解だ。
 それはプリニー達にも言える事で、城で仕事をしている者ならば普通に連れてくるのが通例となっていた。
 新入りであっても、そこは教育係のエトナにきっちりと教え込まれるのだから。
 正体こそ明かさないが、バイアスへの対応はしっかりしろと。
 姿こそ違えど、エトナにとっては未だ尊敬する前主人。