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魔王と妃とその後の魔界

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「せんせー、もてるねー」
「陛下、心せめえー」
「マデラス、男見せてこい!!」
「当たって砕けろー!!」
 降って湧いた事態にやいのやいのと騒ぎ立てる子供達。
 勝手極まりない声援にマデラスは首を傾げ、ラハールはこめかみに血管を浮かせた。
「もうっ、何言ってるの!!ラハールさんも、何を本気にしてるんですかっ!!」
 ぱたぱた走り寄ってきたフロンが、マデラスを庇う様にして立つ。
 それが無性に気に食わなくて、思わず身体が動いていた。
 フロンの手を取り、有無を言わさず引き寄せる。
「ふえっ!?…っ、ちょ……んむっ」
 文句を言い掛けたその口を、己のもので塞ぐ。
 思わず固まるフロンと、その場の面々。
 静寂の中響くのは水音と、漏れる吐息と喘ぎのみ。
 やがて、唇が離れ、それが終わる頃。
「おれもそれやるーっ!!」
「ハーッハッハッハッ!!やらせるものか阿呆がっ!!」
「ら、らはーるさんんっ!?」
 声を上げるマデラスと、もうヤケになったのか開き直ったのか、高笑いと共にそう返すラハールと、顔を真っ赤にしながらあわあわするフロンと。
「お、おおっ!!やるじゃん陛下!!」
「すげえ!!なんかエロイ!!」
「先生顔まっかー♪」
 目の前で起こった出来事に興奮冷めやらない子供達の声。
「………ラブラブバカップル夫婦って噂は本当だったのか………」
「………やるな」
 うわあ…とか呟きながらの弟悪魔と、やたらと真面目な顔で呟く兄悪魔と。
 他の悪魔達も苦笑しながら、野次を飛ばしながら、呆気にとられながら。
 教会内は賑やかに、カオスな場と化すのだった。



「………やってらんねー………」
 疲れた様に愚痴りつつ、教会内から脱出したのはエトナだ。
 こんな場所であんなんをかますとはなんというバカップル。
 しかし殿下も吹っ切れたわねー、と思いつつ窓へと目をやれば、未だにわいのわいのと騒いでいる。
「ご苦労様です、エトナ」
「うわぁっ!?」
 溜息を吐いた所に苦笑混じりの声を掛けられ、エトナが慌てて振り向いた。
「ク……バイアス様!!」
「様はいりませんよ。なんなら、中ボスでも構いません」
 その言葉に、エトナは困った様に、曖昧に笑った。
 外から見守っていたのだろう、バイアスがそこにいた。
「しかしラハールもやりますねぇ」
「まぁ、揶揄う材料にはもうできそうもありませんけどねー」
「開き直ると強くなりますからねぇ。…エトナも開き直ってしまえばどうです?」
「え?」
 バイアスの言葉に、エトナが首を傾げる。
 そんなエトナに柔らかく笑みを浮かべ、
「ふふ、若きマダムを心配し、その足で駆けつけたそうじゃないですか。友情というものも、悪いものではないと思いますよ?」
 優しい笑みと声でそう言われ、反射的に顔が真っ赤になった。
 だがしかし、エトナは全力で平静を装って、
「……………ただ殿下がいない間はあたしの天下だと思ったのに、フロンちゃ…お妃様がいなくなったとかプリニー達が騒ぐから大変だったっていう理由で心配だったとかじゃな」
「まぁ、私の名を騙り、若きマダムを罠に掛けたなど、万死に値する行為な訳ですが」
「いや遮んないで!?」
 一気に捲し立て様として失敗した。
「結果的には味方が増えたという事で、チャラにしてあげましょうかね」
「……あ、結構怒ってます?」
「ええ、まあ。敵対する連中が出れば、秘密裏に闇に葬ろうと思っていた程度には」
 さらりと答えるバイアスに、乾いた笑いを上げるエトナ。
「まぁ、着々と反対派の連中は減っている様で何よりです」
 そう言い、窓から見えるカオスながらも殺伐さの欠片も見えない騒ぎを続けるラハール達を眺めながら。
 バイアスは、嬉しそうに微笑んだ。





 ────後に。
 この一件以来反対派の悪魔が鳴りを潜め、平和な日々が続いた結果。
 悪魔達からの身体がなまるといった不満、暴れたいという本能的欲求を満たす為、ついでに魔王のストレス解消や気晴らしの為と、闘技場で武闘大会などを開く事になり。
 どこから出た噂なのか、魔王を打ち倒したものは新たな魔王になれる、だの、妃を賞品として掻っ攫えるだのという話になり。
 色々とアレな事にもなるのだが…。
 それはまた、別の話である。