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魔王と妃とその後の魔界

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「あ、ゴメン、投げたら爆発しちゃった」
 てへっ☆な感じの軽い口調で子供の一人が答えた。
「………あんたら………」
「もう、皆、いつも言ってるでしょ!?お世話してくれてるんだから、そんな事しちゃダメよ!!」
 思わず脱力するエトナを置いて、フロンが腰に手をあてて子供達を叱る。
 対する子供達は明るくごめんなさーい、なんて言っているが、本当に反省しているのかは微妙な所だ。
「あ、そうだ!!マデラスちゃんは!?」
 フロンが慌てて周りを見回す。
 赤子だったマデラスも今は幼児程度には育っているものの、とても一人で行動できるとは思えない。
「あ、マデラスなら防御魔法の得意な奴が抱えて、城の中に避難してるよ」
「あいつ、逃げ足早かったな」
「ビビリはこういう時に役に立つからいーよなー」
「適材適所ってやつだろ。先生がよく言ってるじゃん」
「それも個性ってなー」
 わいのわいのと子供達。
 言い方は様々だが、各々認め合ってはいるらしい。
 そんな子供達を見て。
「……お前の教育は、なかなかのものの様だな」
「………はいっ♪」
 苦笑と共にそう言うラハールに、フロンも苦笑しながらも、嬉しそうに答えていた。





 ────その後。
「はい、皆さーん!!新しい悪魔さん達が来てくれましたよー!!」
 教会に、『先生』であるフロンの声が響く。
「まずは、わたしに従うと言ってくださった皆さんです!!」
「お、おう…」
「よ、よろしく……」
 元気良く紹介され、更に子供達の視線に晒され、居心地悪そうにする悪魔の面々。
「まだ役職等が決まってませんので、それまでここで皆と交流して頂きたいと思います!!」
 にこにこと嬉しそうに言うフロンに、満場一致の苦笑い。
 子供達もまたかぁ~、なんて顔をしながらも、反発する者はいない様だ。
「それと、ラハールさんの強さに感服し、部下になってくださった兄弟悪魔さん!!」
「……別に感服した訳じゃ……」
「ここの管理と警護を任された。まぁ貴様等の様な逞しい連中には不要かもしれんが、宜しく頼む」
 不満そうにぶつぶつ言ってる弟を置いて、完全に開き直った兄の方は堂々と自己紹介。
「しゃーねーなー、よろしくしてやるよ」
「まぁ頑張れよー」
 弟の方はともかく、兄の方は概ね受け入れられた様だった。

「…なんだかんだと馴染みそうだな」
 くくっ、と笑い、そう呟いたのは、部屋の様子全体を見渡せる後方にいたラハールだ。
「それにしても、あの連中は下働きで良かったんですかー?」
「構わん」
 その隣にいたエトナの台詞に、端的に答える。
 ラハールがぶちのめし、プリニーに手当てさせた連中だ。
 自分達を率いていた兄悪魔の敗北を知り、不満そうにしながらも従うと誓った連中が八割程。
 兄悪魔共々使われたと知り、弟悪魔に敵意を示した連中もいたが、ラハールに対する弱腰っぷりを目の当たりにし、馬鹿らしくなったのか、もうそこはスルー状態で。
 他二割は手当ても拒みどこぞへと去った様だが、残った連中は存外に多く。
 取り敢えずの処置で、今は城の下働きとして使われていた。
「近くで見張っていた方が楽だからな」
 下手に遠ざけて変に企まれても面倒臭い。
 そう溜息を吐くラハールに、まぁそーですねー、と同意しつつ、エトナが口を開く。
「それにしても、結局今回もフロンちゃんの下僕共からは出ませんでしたねー、反対派に戻る奴は」
 初めに紹介されたのも、フロンにつくと言ってそのまま心変わりをしていない者達だ。
「……この地から離れた連中はいたがな。それでも敵になる気は無いと宣言してからだ。……全く、強力な術を施したものだな、あの大天使も」
 不機嫌に言うラハールに、エトナは苦笑。
 この地に留まり、妃に仕える気満々な連中が未だに多いのだ。
 フロンに傾倒するのは一時的なものの筈だが、その効果が切れても悪感情を持つ者は少ない。
 元々ラハールの言った通り、素質のある者に効きやすいのは当然として。
 効きの悪い者であっても、積極的に敵に回った者は今までを見ても誰もいなかった。
(まぁ、その理由はなんとなく解るんだけどねー)
 エトナがその悪魔達に対するフロンやラハールの態度を思い出しながら内心で呟く。
(殿下も結局甘いし、フロンちゃんなんて言わずもがなって感じだし)
 悪魔は元々凶暴で凶悪で、猜疑心等が強く、優しさや愛、思いやりなんてものを教わる機会なんてある筈も無く。
 だが、その術に影響されている間は、すんなりとそれらを受け入れる為なのだろう。
 ラハールの温情や、フロンの笑顔。
 短いながらもそれらに触れ、過ごす日々。
 本来の自分に戻った所でその間の事を忘れ去る訳ではないのだから、そこで敵対しようと思える猛者がどれだけいるものか。
 と、ラハールが面白そうに笑う。
 疑問符を浮かべて目で問えば、にやにやしながら指で前の方を示す。
 素直に目を向けて、その光景にエトナも笑った。

 そこには、なんだかびくびくおどおどしている、教会を狙ったというチンピラ悪魔達。
「それと、皆にひどいことをしようとして、逆にお仕置きされた皆さんです!!この方達には特に、愛の何たるかを語り、教育を施して差し上げようと思いますので、皆も協力して下さいね?」
 次いで響くのは、そんな悪魔達を紹介しながら、にっこりと言い放つフロンの声。
 その声に感じる力強さがフロンの本気度具合を表している様で、その悪魔達とフロン本人を除くその場の全員が苦笑した。



「へいかー」
「む?お前は…」
 フロンの『授業』をなんとはなしに眺めていたラハールに、声が掛けられた。
 目を向けたその先には、おぼつかない足取りでこちらにとてとて近付いてくる幼児。
 その二本角には、見覚えがあった。
「…マデラスか」
「育ったわねー、あんた」
 ラハールがその名を呟き、エトナがマデラスの顔を覗き込みながら言う。
「へいか、とー…エトナ、さま?」
「お、言葉も覚えたか」
 小首を傾げながらたどたどしくエトナの名を口にするマデラスに、エトナが笑う。
「ふん…。こいつがあのマデラスだとはな…いや、もう別人か」
 複雑そうに溜息を吐くが、気を取り直し、改めてマデラスに向き直る。
「で、何だ。何か用か?」
「へいか、せんせーとなかいいの?」
「……夫婦だからな」
 質問の内容に訝しげに眉根を寄せながらも、そう答える。
「…ふーふ…。えっと、なかよし?」
「……まあ、そうだな」
 マデラスは、フロンに懐いている。
 赤ん坊の頃から、そして城にいた頃から、教会で育てられる様になってからもフロンとはよく接していたし、世話してもらっていたのだから当然だろう。
 一丁前に嫉妬か?などと思うラハールの前で、
「おれもせんせーとふーふになりたいー!!」
 間。
 手を勢いよく挙げながら元気にそう叫ぶマデラスに、思わず沈黙するラハール。
 そしていきなりな声に一斉に注目するその場の一同。
「………よしお前敵だな、表出ろ」
「ラハールさん何言ってるんですかぁーっ!!」
 真顔で剣など抜き掛けつつ低い声で言うラハールに、フロンの慌てた制止の声。
「いーじゃん、やれやれー!!」