比翼連理 〜外伝〜
The Origin
1.ペルセプォネ 〜不安〜
「母上、お顔の色が優れませぬが何か御心を曇らせるようなことがございましたか?」
「......ああ、そなたか。我が愛し子よ。母の心は太陽を覆い隠された大地のごとく暗く沈む」
そっと輝く我が子を抱きしめ、豊穣の女神は大地に降る雨のように涙を流す。
「何故にそのようにお嘆きになるのか?」
「恐るべき予言を耳にしたのじゃ」
「恐るべき予言?」
ああ......とそのまま顔を伏せ涙する母をただ静かに見守る。
「恐ろしくて......言えぬ」
静々と涙を流し、言葉を紡ぐ。
「......すでに神々の王は恐るべき予言をしたティターンの優れた智者に永劫の責苦を与えておる。ステュクスの河に誓われるほどお怒りじゃった。かつて彼は我々に知恵を齎し、ティタノマキアにても優れた功績を残せし者。妾も少なからず助けられた。しかし、彼は神々の王に従わなんだ。人間に心を寄せ、恐るべき予言を王に言い放ったのじゃ。そなたの預かり知らぬところで、ここは不穏な空気に満ちていたのじゃ」
「そのようなことが......」
「おまえは守られている......ニュサの花園に。誰もあそこに近づくことは叶わぬから。雑音はおまえには不要。静かにおまえが過ごすこと、それが妾の望みゆえに。王は人間を作ったのがプロメテウスでなければ、もしくは好んでいたのやもしれぬ。王はプロメテウスに嫉妬しているのじゃ。メティスの力を得てなおも叶わぬ、あの先を見通すことのできる力と知恵に。様々な神に愛されるあの神に。そして...恐れてもいるのであろう。玉座を奪う者を導くのではないかと」
すっと優しい接吻が額に与えられる。
「愛しい我が子よ。おまえはいつか...大地の覇者となる。それでも心しておくように。父に......神々の王に決して逆らってはならぬ。さぁ、ニュサの花園に戻るのじゃ。おまえを守るあの花園に。ここは血塗られた場所。権力と欲の渦巻く世界。おまえはおまえの中にある、揺るがぬ正義を守るのじゃ」
おまえを巡る争いが起きると彼の者は妾に予言した。
どのような争いなのか、それがいつ訪れるのか、わからぬけれども。
その争いに巻き込まれないためにも、決してこの子を外に出してはならない。
―――守らなければ。
愛し子には過酷すぎる真実。
『―――大地の女神よ。お気をつけなさい。あなたの愛し子はあなたの御手から奪われる。そして、御子を巡る争いは天地冥海の四界に波及するであろう。御子は禁忌の力でもって、Persephone(破壊者)となる―――』
「母上?」
「決して、決して、花園から出てはなりませぬぞ!」
一体どのような予言がなされたのか?
母を苦しめる神の予言。
―――確かめたい。
母の苦しみを取り除くために。