食満、教師になる
「先輩はどうして用具委員長なんですか?」
「頼まれたからかな?去年までは学級委員長だったんだよ。
「先輩、私ともそれで仲良くなったんですよね!」
「三郎うぜぇ」
「だったら、僕とも仲良くなったってことですよね」
5年生学級委員長コンビが茶々を入れる。
「そうだな」
しかし、茶化して言ったはずのそれをさらりと受け止められた学級委員コンビはと言うと。
「~~~~~~~っ」
「ですよねぇ」
一方だけがめちゃくちゃ照れてしまった。
「もうっ、どうしてそういうこと言うかなぁ」
「あ、三郎が復活した」
「留三郎先輩」
体をひねって三郎たちの動向を眺めていた彼の両肩をがしっとつかむ。
「私と結婚してください」
食堂中に茶を噴き出す音が響いた。一部では茶以外も噴き出してしまい、大惨事となってしまっている。
「マジで?」
「マジです」
「ちょっ、三郎!?何言ってるの!?」
「三郎、落ち着け、もちつけ、ん?おちけつ」
「ハチが落ち着け」
「あははは」
「鉢屋先輩、留三郎先輩が好きなんですかー?」
「好きだよ」
きゃーっと黄色い悲鳴が上がる(食堂のおばちゃん以外ここに女子はいないはずなのだが)。
「えー…鉢屋先輩かぁ」
「庄ちゃんどうしたの?」
「鉢屋先輩に留三郎先輩はちょっとね。もったいない気がする」
「もったいない?」
「お得感がないってことかぁ?」
「留三郎先輩、もっといい人がいますよ。妥協しないでください」
「「ぷっ」」
「庄ちゃんたら相変わらず冷静ね」
1年生の後輩に身の程知らず扱いされて、三郎以外の5年生と6年生は笑いを耐えきれない。
「私だってお得だよ!ほら、留三郎と三郎。名前似てるし!」
「それ関係ないよね」
「だったら、池田三郎次先輩でもいいのでは?」
「…俺は、ちょっと」
「え」
「ぷくく…、三郎次は嫌だってよ」
「うちの三郎次はおまえみたいな奴にはやらん」
「兵助お義父さん!」
「ええい、おまえに父と呼ばれる筋合いはないわ!」
「こらこら、おまえたち」
きゃっきゃっとふざけ合っているのをやんわりと止められる。
「1年生が付いていけてないから」
「そこッスか…」
「さすが留三郎先輩」
「いや、勘ちゃんそれも違うからね?」
「えー、留三郎先輩結婚してくださいよ~」
「三郎まだそのネタ引っ張るの?」
「ネタじゃなーい」
「んー、そうだな…」
「あ、留三郎先輩真面目に考えないでいいですよ!?」
「俺、先輩のそういう所好きだなぁ」
「はっ、ハチもライバル!?」
「あーもう…」
ぐだぐだと話していたのがだんだんややこしくなる。
「…あれだ。父さんと兄さんと弟と幼馴染と親友に勝てたらいいぞ?」
「え」
「先輩、それでいいんですかぁ?」
「早計過ぎませんか?」
「留三郎先輩のお父さんたちどこにいるのかな?」
「ほれ、あそこに」
彼が視線を向けた方に目をやると、いきなりたくさんの瞳が向かって驚いている6年生たちがいた。
「ギンギンな父に」
反抗期だからな、俺。
「落ち着いている祖父」
だから、長次といると静かで、時間がゆったりしていて和む。
「元気な弟に」
元気すぎて面倒見切れないが頼りになる。
「優秀な兄」
実はすごく努力家なんだ、仙蔵は。
「優しい従兄」
不運だけど、ほっとけない。
「俺の家族だ」
おまえはそれに勝てる?と暗に言っているかのよう。
「家族ですか?」
「ああ、そうだよ。おまえたちはどうかな?」
「1年は組のみんなは」
「「「「「家族です」」」」」
いいお返事が食堂中に響いた。
「はい、よくできました」
本日の授業、これにておしまい。
「じゃから、言ったとおりだったろう?あやつは教師に向いているのじゃ」