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さよならセンチメンタル

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高校の制服に始めて袖を通した自分を鏡で見たとき、あまりの代わり映えのなさに、少しだけがっかりしたことを覚えている。色も形もほとんど変わらない、実にオーソドックスな学ランだ。ボタンに刻まれた校章が違うというくらいの差異は、あってないのと同じだった。
中学に入学したときは、初めて学ランを着て、その窮屈さに少しだけ不満を感じつつも、大人へ一歩近づいたような気持ちに胸を膨らませていた。ほんの三年前のことなのに、思い出すと妙に気恥ずかしい。

「いいよなー、男前は。何でも似合って」
「バネも似合わないってことはないと思うけど」

目の前で少し困ったように微笑む男は、黒羽と違って、ふんわりとやわらかそうな榛色の髪に、淡い色の瞳。王子様然として整った顔立ちと、白皙の頬。そんな彼は、黒羽とは違い、グレーを基調としたブレザーの制服に身を包んでいる。

「似合わねーよ。て言うか、俺、ネクタイ結べねーし」

氷だけが残った紙コップをがつがつとストローで突きながらぼやくと、彼はくすくすと笑い、品よくホットコーヒーに口をつけた。

「こんなの慣れだよ。俺も一ヶ月経ってようやく慣れた。何なら教えてやろうか?」
「いいよ。必要になったらネクタイ持ってサエんちに行くから」
「何だよ、それ。いつまでも近所ってわけにはいかないんだぞ?」
「わかんねーじゃん。意外といつまでもこんな感じかもしれないぜ?」

そんな風に返してみたけれど、佐伯は軽く笑っただけで何も言及してこなかった。あまり触れたくない話題なのだな、と長年の付き合いで何となく察した黒羽は、話題を替えることにした。

「なあ。このあと、サエんちに行ってもいい?」
「え、ウチ?ネクタイ結びに?」

途端に怪訝そうな顔をした佐伯に、黒羽は思わず吹き出した。

「いや、ネクタイじゃなくてさ。普通にサエんちに行きたいって言ってんの」

そう言ってもまだ少しわかっていない様子の佐伯に、こいつは時々妙なところで鈍いよなあ、と黒羽は笑いを噛み殺しながら、店内の他の客に不自然に思われないように、少しだけ声を潜めた。

「二人きりになりたい、って言ってんだけど。通じてる?」

にやりと笑みを浮かべて頬杖をつく黒羽の顔を見て、そこでようやく佐伯も意図を察したらしく、何とも決まり悪そうにそっぽを向いた。普段は穏やかな好青年の外面が板につき過ぎていて忘れがちだが、仲間内だと、佐伯は偶にこうした子供っぽい表情をのぞかせる。

「………夕飯までなら」
「よし、決まりだな」

どこか不満そうな佐伯に構わず、黒羽はにいっと笑ってそう言った。
作品名:さよならセンチメンタル 作家名:あらた