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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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『―――ちゃんと相手を見る目を持っている子は好きだよ』

 そんなことをこの神が嘯いたことさえも記憶の端に刻まれていた。
「あの場所にはシャカはいなかった……そういうことなのでしょう?」
「そうだよ。あの場所にはきみの探し物―――シャカはいない」
「なぜ、あなたが私をここへ呼び寄せたのか……つまり、シャカは此処にいる―――そういうことでしょう」
「さぁ、それはどうだろうねぇ」
「白々しい」
「だってさ……そこで盗み聞きしている誰かさんにまで知られたくないもの」
 そう言うと神はパチンと小気味良く指先を鳴らした。すると生い茂る木々が霧のように掻き消え、代わりに闇色を纏う冥闘士の姿が現われた。
「おやおや、ばれてしまったようですね」
「ミーノス……」
 呆れたようにムウが呟くと、ミーノスは臆することもなく近づこうとした。大胆不敵すぎるほどに。この神を甘く見ているのだろうかとムウが危惧を抱くほどだった。
「どういう魂胆かはわからないけど。よく、ここまで追ってきたね。褒めてあげるよ、きみ。でもね―――」
「!?」
 一瞬の出来事だった。
 光の速さですら遅く思えるほどに。気付いたときにはミーノスの姿は光の彼方へと消え去っていた。
「―――冥闘士よ。この場所には貴様はふさわしくない」
 名も知らぬ神は光の残滓に目を向け、背筋を凍らせるほどの感情のない声で呟いた。甘ったるい笑顔とは裏腹にその瞳には冷酷な色が宿らせながら。
 ムウは改めてこの者がどれほど危険な存在なのかということを再認識する。
「やはり、あなたの名を聞いておきたいと思うのですけれど」
「いいよ。教えてあげても。アリエスのムウ」
「……」
 とっくの昔にこの神は己の名を知っていながら、知らぬ風を装っていたのだろう。神であればそれぐらい容易いことなのかもしれないと思いながらも、ムウは不愉快さに眉根を寄せた。それを見てとり、さらに笑みを零しつつ神は名をようやく告げた。
「我が名はヘリオス。ティターンの一柱。ヒュペリオンの一滴。灼熱の光を『力』とする……これでいいかな?」
「ヘリオス……灼熱の光、ですか。私を容赦なく焼いたあの力を忘れもしません」
 火傷の跡は残ってはいないはずなのに、幻の痛みがジリジリと皮膚を焼くような錯覚に陥るムウである。
「飛んで火に入る夏の虫……といった感じだったものね。きみがあの時、冥王の血の加護を受けた冥衣ではなく、ただの黄金聖衣だったら―――きっと、そのまま君は灰になっていただろうね」
 なんでもないようにサラリと言われ、背筋に薄ら寒さを覚えた。
「さて。自己紹介も済んだことだし、きみは一足先に聖域に戻ってもらおうかな」
「―――え?ちょっと、待ってください。シャカは?シャカを隠したのはあなたでしょう?戯れに私を此処へ呼び寄せたのはシャカに会わせるためではないのですか?」
 食い下がろうとするムウに最早興味は失せたとばかりに薄い色素の瞳を伏せたヘリオスは淡々と感情のない声で呟く。
「アリエスのムウ、アテナに伝えて。冥王の剣を海皇から奪いその手に治め、僕に差し出すようにと。さもなくば……シャカの命はないよ?」
「待……っ!?」
 ムウの返事を待たずして問答無用というように先程ミーノスを追いやった同じ力を行使するヘリオス。以前のように皮膚を焼くような熱い障壁が一瞬の間にムウを包み込んでいった。
 あの時のように焼かれぬよう、ただ身を守ることだけでムウは精一杯だった。その場に踏み止まることはかなわず、押し出されるようにしてその場から退出されたのだった。
 ムウを強引に向かい入れたように今もまたムウを強引に聖域へと送ったヘリオスは静けさに包まれた庭園が贈る、爽やかな微風に輝く絹糸の髪を舞わせると、小さく溜息をついた。
「さて、と。野暮用は済んだことだし、そろそろ一度、彼にもお目覚め頂いたほうがいいだろうね」
 徐に手を伸ばしたヘリオスは爽やかな香り漂わせる草葉を選んで、躊躇もせずに手折るとくるくると指先で玩びながら、緑深い場所へと向かって行った。