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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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「タナトス?」
 風に舞い狂うように運ばれてきた輝く羽に右手を翳し、触れたタナトスは見たことのない微笑を浮かべていた。その理由がわからず、不思議そうにアテナは眺めた。
「フッ……消えたか。そして、在る、のだな……」
 謎めいた言葉を呟きながら、触れた先から消えていく黄金の羽をひどく優しく満足そうに銀色の双眸は見つめていた。
 冥王に懐柔されているようで、だが心の奥では冥王に対し、いつだって牙向けているかのように思える存在のような双子のひとつ。アテナにすればその存在も、奥底に秘める情熱も何処にあるのか、またその正体さえ、見当がつかない。もう一神である眠りの神とて同じことだった。
 だが、そんな危険すぎる両刃の剣のような双子神を何故、冥王は愛でるのか……ほんの少しだけ垣間みえた気がした。
「決着はついたようですね……私は戻ります。何だか腑に落ちないことばかりでしたが。残してきた者たちが心配ですし」
「―――ならば、ついでにおまえの領域で遊び呆けておるグリフォンとワイバーンに伝えてくれ。下らぬ宴を催した軍神配下の者たちの粛清に行け、と」
 一変して残酷な笑みを浮かべて見せたタナトスにアテナは眉を顰めた。
「今もって争う、というのですか?」
「ああ、そうだ。それが、我らだ。我らの正義だ。おまえたちとは永遠に相容れることはないだろう。アテナよ、穏やかに見える水面であっても、その中にあるは激流。そして、それこそが我らの頂に立つハーデスさまの本質だということを忘れるな」
 怯むかと思えたアテナはほんの少し戸惑った様子を見せたのち、首を横に軽く振り、やや自嘲的な笑みを返す。そんなアテナを怪訝にタナトスは伺い見た。
「ご忠告をありがとう。そうですね、忘れていました。私の中にもその激しい流れがあるということを。時にはその奔流に押し流されることもあることでしょう―――そして、もしもその先にあなた方が立つというのであれば、私は迷う事無く、ぶつかっていくことでしょうね」
「フッ。我らが主もまた然り。―――戦女神よ、ほんの刹那の平和を噛み締めるがいい……」
 そう言葉を残し、去っていった死神。
 ハーデスと深く繋がり持つ死神の言葉はハーデス自身の言葉でもあるのだろうとアテナはほんの少し顔を曇らせた。
「それでもハーデス。私もあなたも……膨大な記憶を超え、遙か遠い時の彼方から―――この空が、この風が、この時が、滄溟のようにひどく優しいものであったことを懐かしむことでしょう――――」
 薫風にさわと髪を靡かせながら、深い愛に包まれた緑濃い太古の森から風に運ばれた言霊に耳を傾け、アテナは「そうね……」と満足そうに頷くと、艶やかな笑みを差し向けた。





 ―――永遠なる刹那

     我ら、愛す―――






Fin.