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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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 大地に刺さった剣をハーデスはその手に呼び寄せ掴んだ。
 ぎゅっと固く握り締め、その内在する力を確かめる。冥界の掟に取り込まれ、微睡んでいるのは己が正義を貫き、散っていった光の破片――黄金に輝く鳳の奪い取った片翼、鳳を捕らえ続ける永劫の鎖ともいえる力。
「もうよい……もう、苦しまなくともいい。あまねく光で闇を照らす者よ、我が心を充たす者よ……失いたくないと思うのは……他の誰でもない、シャカ、おまえだ」
「ハーデス……っ」
「終わらせよう。狂おしいまでの愛を。確かに在ったその愛を。奪い取った片翼を返そう。捕らえ続ける永劫の鎖をこの手で断ち切ろう。解き放て―――シャカ。狂おしくも美しい、その気高き翼を自由なる空へ!」
 力の根源、“核”へと切っ先を狙い定める。
 シャカの内に在る核の鼓動と同調するように、剣もまた淡く、強く、鼓動のように発光した。一瞬、息を呑み、目を瞠ったシャカは意を決したように深く息を吸い込む。
 シャカは全身に光を帯び、輝きを増しながら、両腕を伸ばすと、まるでハーデスを抱き締めようとするかのような姿勢で鋭い切っ先へと身を投げ出した。

「――――・・・っ!」

 剣はシャカを刺し貫いた。
 いや、そうではなく、剣がシャカの身の内へと深く呑み込まれ、取り込まれていったのだとハーデスは感じた。剣に宿っていたひとつの破片―――“生命”が本来あるべき場所へと還って行くのだと。身を引き裂かれるような、翼をもがれるような痛みの衝撃にハーデスは耐える。シャカもまた蓄積されていく過剰な負荷、膨大なエネルギーをその痩身で受け止め、臨界へと導いた。

 そして。
 一気に噴出した迸る力。
 凄まじい奔流。

 洗い浚い消し去るかのような奔流を受けながら、美しい幻影をハーデスは瞼の奥に焼き付けた。

 輝く曙光の鳳が、翼を広げて飛び立とうとするその瞬間を。
 黄金の焔の翼を広げ、解き放たれていく瞬間を。
 自由な空へと舞い上がっていく瞬間を。

 黄金の羽が舞い上がる。
 暁の光のように輝きながら、優しき緑の風に吹かれて。
 空の彼方へとどこまでも遠く。

「この空も……この風も……この愛も……きっと限りなく、この胸に」
 輝き、舞い上がっていく羽を見つめながら、さらりと流れる髪を伴って胸の内に落ちたシャカを受け止め、抱き締める。
 温かな鼓動がトクンと伝わった。
「――――私は何と弱く……脆く、醜いのだろう。浅はかで愚かで……残酷だ。ハーデス……ペルセフォネ、プロメテウス―――想いを知りながら、おまえたちの希望を判っていながらもなお、それでも私は願った。すべてが、どうなろうと……ただ、私はおまえの中に“私”として在りたかった」
 空よりも美しい、濡れた蒼い瞳を見る。

  生まれたばかりの純粋なる心。
  刹那に輝く生命の光。
  ささやかで溢れんばかりの願い。
  己の手の中に舞い降りてくる。

「始めよう、シャカ。振り返る必要も、嘆く必要もない。たとえ翼がなくとも、おまえは自由に空を飛翔することができる者――――私と共に行こう。私はおまえと辿り着くこの想いを離しはしない」