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独占欲 前編

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「さ~きさん!」
突然声をかけられて咲は後ろを振り返った。
「やっぱり、咲さんだ!これからガッコ、ですよね?」
デザインスクールでいっしょのクラスの男の子、夏目翔が、そこに立っていた。最近咲はデザインスキルを磨くために、仕事の後、デザインスクールに週一回通っているのだ。
「夏目くん。うん、これから行くところ。あなたは学校帰り?夏休みなのに?」
夏目翔は、まだ高校三年生。美大受験のために咲と同じデザインスクールに通っている。まあ、美大志望生のための予備校みたいな機能もスクールは果たしているのだ。彼はテキスタイルデザインをやりたいのだと、クラスで話していた。実家が京都の老舗の呉服屋で、いまどきの男の子にしてはめずらしく、着物のデザインをやりたいといっていたっけ。
「補習っす。咲さん、夏目くん、なんて、やめてくださいよ、っていってるじゃないっすか。翔でいいっすよ、翔で」
そう言いながら翔はさりげなく咲が持っている紙袋を持とうとする。
「あ、翔くん、いいよ、これ、重いから。仕事用のファイルがたくさん入ってて・・・」
「だから、じゃないすっか。オトコに格好つけさせてくださいョ」
翔は咲の手から紙袋を取り上げた。
(オトコって・・・まだ、高校三年生なのに・・)
背伸びする翔の様子がおかしくて、咲はおもわず笑ってしまった。
翔と並んでスクールへ向かいながら、咲は彼に話しかけた。
「翔くん、偉いね。学校いって、スクール行って。受験勉強たいへん?」
「う~ん、ま、ね。あの美大、けっこう競争率高いから。それに、最近は、絵より、デザイン系のほうが倍率高いんっすよね~」
「そうか~。大変だね。がんばってね」
「大変っす、でも、がんばりま~す!」
翔はおどけたようにいって、咲へにやっと笑った。制服の白いワイシャツが若々しい。けれど、彼は着物デザイナーという、けっこうマイナーな職業を将来に見定めていて、自分のやりたいことを18歳ながらわかっている。その点、咲は尊敬していた。自分が18歳の高校生の頃なんて、将来のことなんて、何にも考えていなかった。話題はパフェや男の子のことやテレビのことくらいだったような・・・。

「咲さんも大変っすよね。仕事して、ガッコにも行って。咲さん、エデンのウェブのデザインやってるんでしょ?もう十分、ウマイと思うけどな~」
「ありがと。でも、まだまだ、だから、私」
「そうっすかね~。あ、そうだ、エデンも、ちょっと和的な要素加えてみるってどうすか?」
「和的要素?」
「そう。やっぱ俺たち、日本人じゃないっすか。大和ダマシイっていうか、日本の文様とか、やっぱりしっくりくる気がするっすけどね~」
「日本の文様か・・・そうだね、それ、面白そうだね?」
「咲さん、本当にそう思ってくれる?」
翔は急にイマドキの若者風の口調をやめて、真剣な面持ちで咲の顔を見た。
「うん、ホント、そう思うよ。今まで考えたことなかったけど・・・興味ある」
「嬉しいな・・・咲さんがそういってくれて・・・」
「え?」
「な~んでもない!とりあえず、和風文様エデンサイト、どっすか?俺、いろいろ手伝っちゃいますよ?なんといったって、呉服問屋の息子っすから!」
翔はそう明るくいって笑った。


そして一ヶ月。
翔のアイディアをとりいれた和風文様のウェブデザインは予想以上に好評で、咲は翔に感謝を表すつもりで豊洲のエデンのオフィスへ連れていった。185センチあるすらっとした長身に、なんといっても高校三年生の若さ。たちまち、オフィスの女子たちのアイドルになっていた。オネエなんて「若いわー、若いわー」と、はしゃいでいた。男子たちともたちまち打ち解けて、平澤や板津たちとも気軽に話していた。ただ、エデンの仕事だけでなく、飯沼千草の選挙対策のプロジェクトも手伝っている滝沢とは顔を会わせるチャンスはなかなかなかった。滝沢がエデンのオフィスに顔を見せるころには、翔はすでにオフィスを去っているので。でも、咲は、和風文様デザインに協力してくれている翔のことを彼に説明して、最近のエデンサイトのニューデザインの人気に翔が貢献してくれていることを話していた。
滝沢も「ふ~ん。ミドコロありそうなヤツじゃん。今度会ってみたいな」と言っていた。もっとも、翔は現役高校生で大学受験を控えている身。そう頻繁にオフィスに姿を現せるはずもなかったが。
でも、顔を合わせないときでも、彼は、和風文様のデザイン案を頻繁に咲にメールしてきてくれた。受験も控えて急がしい時期だし、無理しなくていいよ、できればアルバイト代も払いたいと申し出る咲に、これも美大の受験勉強の一環だからと翔は笑って取り合わない。咲は何か翔にお礼をしないと、と思いながら、どうしたらいいかと迷っていた。


そんなある日。デザインスクールの授業が終わった後で、地下鉄の駅まで一緒に歩きながら、咲は翔に、せめてものお礼に翔をエデンの仲間たちで食事に招待したいと申し出た。

「ホント、翔くんのアイディアには助かってるの。でも、翔くん、アルバイト代もいらないっていうし。だから、せめて、翔くんの好きなモノ、ご馳走したいと思って・・・」
「・・・二人がいい・・・」
「え?」
「咲さんと二人っきりがいいんだけど、俺・・・」
「翔くん?」
咲は翔の顔を見上げた。
「咲さんだけにご馳走してもらいたいです、俺。」
「あ、あの・・・」
「咲さんにカレシいるらしいって、知ってるけど、俺・・・」
翔は立ち止まって、咲の顔を直視した。そして、咲の手を取る。
「あの、翔くん、ちょっと待って・・」


「は~い!そこまで!」

突然の声に二人はびっくりして、声の方を見る。
そこには滝沢が立っていた。道路に止めたビッグスクーターに寄りかかりながら、咲と翔を見ている。

「た、滝沢くん・・・ど、どうして?ここに?!?」
「どうしてって、咲を迎えにきたんだよ?」滝沢は満面の笑みを浮かべる。その笑みがいかにも作り笑いのようで、咲はひやっとする。
滝沢はつかつかと近づいてきて、咲の手をとったままだった翔の手をはがして、自分がかわりにぐいっと握った。
「お前が翔?いつもすっげーいいデザイン考えてくれて、ありがとな!俺、咲の彼氏!の滝沢。よろしくっ!」
そう言って滝沢はぎゅう~っと翔の手を握った。
「あ、あんたが、咲さんの彼氏?」
「そう!!咲の彼氏!翔は咲の学校のトモダチ!だね?」
なんだか、滝沢と翔の間に火花がびびっと飛んでいるようで、咲は思わず一歩あとずさってしまった。
「あ、あの、滝沢くん・・・もし、何か、誤解してるようなら・・・」
「さ~き~♪」
相変わらず張り付いたような笑顔で、滝沢は咲に語りかける。
「ちょっと、翔とオトコ同士の話があるからさ、スクーターに先に乗ってて?いいね?」
「は・・はい・・・」有無をいわせぬ口調である・・・。

咲をスクーターに追いやった後、滝沢は翔の肩を抱いて言った。
「翔、お前、見る目あるな。咲に眼をつけた趣味のよさはほめてやる。咲のチカラにもいろいろなってくれてるようだし。彼氏の俺としても、お前に感謝してるよ。でもな・・・」
滝沢は翔の顔を凝視していった。
「咲はぜ~ったい、ゆずらねえから、あきらめてくれ」
作品名:独占欲 前編 作家名:なつの