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君の宝物

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「アンディ、おまえさ。もし俺がそのお姫様だったら、どうする?」
「……え?」
 アンディが身をひいて、ジトッとした目でウォルターを見る。その顔は引きつっている。
「お姫様になりたいの? ウォルター」
「違うっ!! 勘違いすんな! そうじゃなくて!!」
 誤解におおいに焦る。
 冗談じゃない。どういう発想なんだ。そうじゃなくて。
「だからその……俺が、その宝物を探してあちこちさまよってる、お姫様みたいだったら……さ」
 言いながら、バカらしくなってくる。たとえ話だ、それにしたって。
 疎まれて、追い出されて、あちこちさまよって、大切な宝物を探している……だなんて。
 そう、悪く言われて追い出されて、どこに居ても居場所なんて無くて、さまよって……そんな、そんなのは。
 そう、自分にはわかる。そのお姫様の悲しさが。淋しさが。わかってしまう。
「……よく、わからないけど」
 アンディがポツリと言う。
「ボクは、ウォルターをかわいそうだとは思わないよ」
 大きな瞳が、じっとウォルターを見つめる。ただ、静かに。
「……そっか」
「うん」
 当然のようにうなずく。
 ウォルターはまるで眩しいように目を細めてアンディを見上げる。
 『悪魔の子』と言われ、孤児院を転々としてきた自分……。
 でも、かわいそうなんかじゃない。そう思われたくはない。
 ……アンディは、そう思わないでくれる。たぶん、自分の過去を知っても。
 ウォルターはニッと笑う。
「アンディ。その話、王子様は出ないのか?」
 嬉しくてしょうがない。ニマニマとして尋ねる。
 アンディが瞬きして首を傾げる。
 サラリと金色の髪が揺れて、光の輪が移動する。思わず触りたくなるようなキレイな髪。
「さあ、どうだろ……今のところまだ出てきてないけど」
「めずらしい童話だな。お姫様がえんえんと旅するだけなんて。……モニカ秘書官が『いい話』って言ってたんだよな。……なぁ、アンディ。それ、ちょっと貸せ」
「ええー……」
「すぐ返すからさ」
 アンディがしぶしぶと本を差し出す。ウォルターはそれを受け取る。
「結末とか言わないでよ」
「わかってるって。ええと……」
 モニカがわざわざこの本を選んだ理由が気になる。
 ウォルターは終わりのほうのページをめくる。
 お姫様は、自分の国に帰ってきていた。
 別の国に嫁ぐわけでもなく、お妃様が死んだりしていなくなっていたわけでもなく。
 お姫様は旅を終えて、自国に帰り、お妃様と王様の前で堂々と言う。
 『世界にたったひとつしかない宝物は、誰でも持っている、自分という宝物だ』と。
 ……なるほど。
 ウォルターは納得して本を閉じた。
 満足してにんまりしているウォルターに、白い手が差し出される。
 アンディがベッドの上から本を取り返そうと手をのばしていた。
「サンキュ」
 渡すと、奪い取るようにして胸に抱きかかえ、むすっとしてウォルターをにらむ。
「絶対に言うなよ。まだ読み途中なんだから」
「どうしようかな~」
 へらっと笑い、わざと意地悪く言ってからかう。
 アンディはそんなウォルターを無視し、またベッドに寝そべって、本を開く。
 『やれやれ』と息を吐いて、ウォルターは「邪魔したな」と言って立ち上がる。
 アンディが意外そうに大きく目を見開いてウォルターを見る。
 それにやさしく穏やかな目を返して、ウォルターはあっさり背を向けた。

 いい本だから読んでほしい。

 その気持ちがわかる。
 確かにいい本だ。
 ……アンディに、伝わればいいけど。

 自分という宝物をもっと大事にしろって。





(おしまい)

作品名:君の宝物 作家名:野村弥広