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私の疫病神

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「レントンさん、ちょっといいかしら?」
 耳を直接擽って来る、死神のような甘い声だ。もっとも、死神よりも、疫病神のほうが近いだろうな。
 兎も角、癒し手を生業としている彼女は、朗らかに話かけて来た。

「何か用か」
 たぶん、野暮ったく感じられるであろう仕草で翻り、自分でもハッキリ解る仏頂面で私は彼女に向き直った。
 名前はまだ知らない。興味がない。私にとって、そこらで幼稚な賛美歌を唄い続ける吟遊詩人同様、ただの耳障りなひとりでしかない。

「先に言っておくが――」
「今日もお暇そうなので、お仕事を取って来ましたよ。また街の近くで魔獣達が暴れているそうですよ」
 ……今日も遮られてしまった。
「私には関係――」
「依頼主の方はとても困っているそうです。だから、手伝って下さい」

 はふ……。
 ひとつ溜息を吐いて、見晴らしのいい平原に注ぐ斜陽の輝きを見送っていた。
 ――結局。あの疫病神の癒し手に強引に押し切られて、その依頼をこなしまう自分がいた。
 自身でも痛感していることだが、押しが弱いというか、何というか……。

 加えて、どこか依頼主には私の妹の面影があるというか。依頼主は皆画家で、絵を本当に慕っていると同時に、自身の”才能”に行き詰まりを感じた、諦観を噛み締めたような女性ばかりであった。

 無論、芸術の街とさえ称されているルミエストにはそんな画家は掃いて捨てる程いる。それでも、全部が全部重なって見えるのはおかしい。まるであの癒し手は、私の妹を知っていて、わざと私がノリ気になりそうな依頼主を選んで来ているような――

 いや、考えすぎか。知るはずもなかろう、妹は……レイチェルのような才能はなかった。あの子は、筆を取る場を選べるような恵まれた子ではなかった。 私は疎らになった思考を打ち消すように酒瓶を煽る。口の中に苦味と甘味の両方が入り混じり、複雑な香りを愉しむと喉を鳴らした。

 手続きなどに私は顔を見せる必要はない。毎度、癒し手が依頼主との交渉や事後処理などを行い、私は彼女から金を受け取るだけでいい。今度もいつも通りであった。 今回の報酬は相当なもので、当面の酒代に困ることはないだろう。ただ浴びるようにクリムエールを飲むとしよう。



 ――今日は、意味のない事を考え過ぎた。




作品名:私の疫病神 作家名:おりヴぁ