私の疫病神
私の唇に何かが触れた。それは柔らかく、みずみずしい。
次に舌が何かに絡め取られる。果汁のような甘味と香りが口いっぱいに広がる。舌に感じた水気を嚥下すると、今度は下腹部のほうへ何かが動いた。
ぎこちない動きであったが、気味悪さは感じない。どこまでも柔らかく、優しく――そして、どこか躊躇したようなソレの動きは、私の股間に止まった。
そして申し訳なさそうに、それは私のモノに軽く押すようにして触れ、ゆっくりと動かす。
その触覚の刺激により、私の意識は急激に蘇る。
眼前には、あの疫病神の顔――いや、そもそもこの娘の顔をまじまじと見たことはない。いつも服装と声だけで決めつけていたからだ。
その顔――癒し手のものと思われるそれは、美醜か問えば美しい、というより可愛いと言った部類だろう。どこか垢抜けない顔立ちと、一般のものよりすこし大きい瞳は、酒のせいか、どこか淫靡さを秘めていた。
子供のような幼さと、大人のような淫靡さが垣間見えるソレに、私は思わず胸が高鳴った。
――しかし、それとこれとは別だ。
「何を……」
私は声を挙げる。挙げたはずだ。
しかし、その後の言葉が響かない。何故?
簡単な事だ。彼女がそっと私の口を封じていたのだ。
「こういう時は、殿方は女性に従うものです」
酒のせいか、それとも恥じらい故か。先程よりも頬を紅潮させながら、口に人差し指当てると、彼女はウィンクしてみせた。
――君は、すぐに人の話を遮るな。
目尻に涙さえ溜めている、私の疫病神に心で愚痴を漏らしつつ。
私は全身の力を抜いて、彼女に身を委ねる。
――死神よ、どうやら私はまだこの疫病神に愛されているらしい。
そして、妹よ。まだ、おまえの所にはイケないようだ。
月明かりが私達を照らす。
今夜は、悩む事はなさそうだ。