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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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続・例えばそういう恋の話

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「左近、起きろ左近。朝じゃぞ?」
「……ん……んん…?」
 ゆさゆさと体を揺すられ、深い眠りから一気に叩き起こされた左近はぼんやりと目を開ける。眼前に見える伏犠の顔とその両脇で揺れる天色の房を眺めて何故この男に起こされているんだ、と真っ先に疑問が浮かぶ。
「ほれ、早う顔を洗え。朝餉もできとる」
 問いを口にする前に畳み掛けられ、寝起きの頭に浮かんだ疑問は霧散してしまい。
 布団から這い出し、枕元に置かれた桶で促されるままに顔を洗い渡された手拭いで顔を拭って振り向いてみれば、確かに朝餉の膳まで用意されている。
「…伏犠さんが用意してくれたんで?」
「おお。ちいと早く目が覚めたでのう」
 そうか、となんとなく納得して膳の前に移動し、両手を合わせてからもそもそと朝餉を食べる。
 飲み過ぎた翌朝に白米と汁の簡素な膳がありがたい。
 米を噛みながら昨夜のことをぼんやり思い返す。
 確か郭嘉といつものように飲みに行って、酔っ払って帰ってきて。
 そういえば帰ってきてから着替えなどの諸々の記憶が曖昧になっている。
「……あ、鎧と直垂…」
「用意しておいたぞ?」
 箸の先を口から少しばかり離して思い出したように呟けば、少しばかり離れたところに座って左近が朝餉を食べている様子を興味深そうに眺めていた伏犠が背後を示す。
 そこには綺麗に揃えられた鎧一式と衣桁に掛けられた直垂が見える。
 ならば問題ないかと食事を再開し、汁を啜りながら徐々に、徐々に昨夜のことを思い出す。

 これ、俺にくれませんか?
 好きなだけ持って行くが良いわ。

 ぴたりと左近の箸が止まる。
 傾けていた汁椀を口から離して伏犠を見る。
「伏犠さん」
「何じゃ?」
 伏犠は胡座の上に頬杖をついたまま打てば響くように応えを返してくる。
「何なんです、これ?」
「朝餉と言うのじゃろう?」
「いやそうじゃなくて」
 なんでこんな状況になってるんだ。
 おかしいだろうこれ、どう考えても。
 酔っ払っていたとは言え自分から持ちかけた話を思い出し、左近は盛大な頭痛に見舞われる。
「じゃから程々にせいと言うたじゃろう」
 呆れたように言う伏犠が立ち上がり、湯呑に水を汲んできてくれる。
 それを受け取りながら伏犠の顔を見上げそのあくまでいつも通りの表情の相手を見て、また頭痛がぶり返した気がした左近は頭を抱えるのだった。



「…おーっす左近…今日も早いよなぁ…」
「おはようございます司馬昭さん。いつものことなんでそろそろ慣れちゃどうなんです」
「あーはいはい………ていうかさー、どしたのお前そんなにきっちりしちゃってまあ」
 朝議の開かれる天幕へと向かう途中で司馬昭に出会い、何気なく挨拶を交わしただけでまじまじと全身を眺め回され、左近は何事かと自分の姿を見下ろす。
 特にこれといっておかしなところはないようだが、と顔を上げれば司馬昭は顎に指を当ててははあ、と何かを察したように片目を眇めている。
「…朝帰りってとこか?お盛んだねぇ」
「…はぁ?何いってんですか。昨日はちゃんと帰りましたよ。だいたいいつもこんなもんでしょ?」
「いーや、普段のお前はもっとだらしないね」
「んなこたないでしょう。これでも身なりには気を使ってんですがね」
 司馬昭に言われたことの意味がわからず、左近は首を傾げる。
 夕べは確かに自分の天幕に帰って今朝もちゃんとそこから出てきた。
 朝帰りなどと勘ぐられる謂れはないはずだ。
 一体何がおかしいのかと問おうとしたところ、司馬昭が左近の背後を見てぎょっとした顔をして。
「悪い、左近。俺先に行くわ」
 言い残して返事も聞かずに駆け出していった司馬昭に呆気に取られていると、左近の隣に小柄な影が立つ。
「…人の顔を見るなり逃げるなんて。また何か疚しいことでもあるのかしら」
 淡々と呟く元姫に軽く片手を振って挨拶をして。
「おはようございます、元姫さん。元姫さんこそどうされたんです?」
「今日は特に忙しくはないので子上殿と一緒に朝議に出ようと思ったのです…が…」
 司馬昭の去った先に視線を向けていた元姫がそこでようやく左近を見上げ、その言葉が途中で途切れる。
 目を瞬かせる元姫に左近はまた首を傾げて顔に何かついてでもいるのかと自分の頬や顎に片手で軽く触れて何事もない事を確かめながら、
「…どうしたんです元姫さん。俺の顔に何か?」
「……え、いえ。何でも、ありません。気のせいでした」
 失礼します、と頭を下げて司馬昭の去った先に歩き去る元姫の姿を見送りながら、左近は何なんだと首を捻るばかりだった。


「おやあ?左近あんた、今日は随分といい男じゃないのさ。見違えたねえ」
「おや左近殿。今日は随分と輝いていらっしゃる。その眩しさ、大層お美しいですよ」
「あらぁ左近はん。今日はまた随分とええ男ぶりやわぁ。どないしはったんどす?」
 朝議に向かう間、司馬昭や元姫だけでなく道行く女性陣にまで声をかけられる。
 女性にそう言われればこれはこれで悪い気はしないが、今日になってそう口々に言われるのも不思議な話である。
 左近は首を捻りながら朝議の行われる天幕へと向かい、その天幕に入る直前に思い出した。
 普段と今日とで違っていることと言えば。
『左近。襟が歪んどる』
 出掛けに伏犠に呼び止められてぐい、と襟元を正され。
『これでよし、じゃな。行って来い』
 ぽん、と笑顔で背中を押され。
『はいはいどうも。じゃあ、行ってきます』
 そんなやりとりをして自分に割り振られた天幕を出て。
 そんなやりとりが何となく擽ったくて。
 押された背中がほんの少しだけ温かい気がして。
 違っていたのはその程度。
 その程度のことしか違いがなかったはずだった。