俺の家族
滝沢がニューヨークから帰国後再会したときのこと。
滝沢が咲のところに戻ってきてから、再生東のエデンで一緒に働き始めた頃のこと。
滝沢と咲の結婚式で板津がおお泣きしたこと。
結と潤が生まれたとき、滝沢と板津の二人でおいおい泣いて、エデンのヤツラにアキレラレタこと。
咲と滝沢の二人を、ずっと見守ってくれた板津。まるで、家族のようだ。
滝沢には行方不明の母親がいるだけで、身内って呼べる人間はいなかったけど。いまや、咲がいて、結と潤がいる。生まれてくる子供も。そして、板津も。平澤も。滝沢にとっての「家族」がいる。
あのヘンテコなノブレス携帯に苦しめられたこともあったけど。あの携帯に巻き込まれたことで、俺は咲と出逢えて、滝沢朗としての時間が動き出した。そして点と点はつながり、線になり。俺に家族という円を与えてくれた。だから、やっぱり。感謝、だな。
滝沢はいま自分がココにいられること、板津が傍にいてくれることに、心から感謝した。
「生まれましたよ!滝沢さん!」
その声に二人は立ち上がった。
「男の子ですよ、お母さんも無事ですよ!」
二人は顔を見合わせた。みるみる二人の瞳には涙が沸きあがってくる。
「板津っ!!」
「滝沢っ!!」
二人は肩を寄せ合って、わんわん泣き出した。看護婦さんが引き気味に二人を見ている。
「咲・・・咲のところ・・・いっていいですか?」
滝沢がしゃくりあげながら聞く。
「ど、どうぞ。あの、お二人とも・・・ですか?」
「はいっ!!」
看護婦は返事の強さに押されて、二人を咲がいる病室に案内した。
「あ・・・滝沢くん・・・板津くん・・・・」
「さきっ!!」
滝沢は咲の手を握り締めていう。
「咲、大変だったね。ありがとね。大丈夫だね?男の子だね?ああ、ほっとしたよ、俺」
「姉ちゃん、がんばったのう、よくがんばったのう」
二人ともまだ涙を流している。
「うん、すごい安産だったの。ぜんぜん、大丈夫だったよ。二人が見守ってくれたからだね、きっと」
咲はふわっと笑った。その笑顔に、二人はまた涙をあふれさせている。
咲は滝沢の頬に手を添えていった。
「息子ができましたよ?お・と・う・さ・ん!」
「うん。うん・・・咲・・・ありがと・・・俺・・・咲・・・」
滝沢はどうにも涙を止められない。
「あ、あほう、嬉しいのに泣くヤツがあるかいっ!」
「そういうお前も泣いてるだろっ」
二人はこづきあった。
「う・・うん・・」
結と潤が騒ぎに目を覚ました。
「あ・・あかたん?」
「うん、結、潤、弟がきましたよ」
咲がやさしく二人の娘に、生まれたばかりの弟をみせる。
「わーい、おとうと、おとうと」
二人の娘はよろこんで、弟にさわろうと手を延ばす。
「はい、はい、ちょっと待ってねー」
滝沢と板津は、涙をぬぐって、二人をそっと弟に近づけた。
結と潤が弟をなでなでする姿を見て、滝沢の涙腺がまた破壊される。
「咲・・・ありがとっ・・・板津、ありがと・・・お前たち・・俺の家族だよ、俺の」
そう言っておいおい泣き出す滝沢に、結と潤が
「パパー、どうしたの?かなしいの?」
と聞く。
「いーや、パパはうれしいのっ!結と潤と、弟くんと・・・。咲がいて、板津のおっさんがいて・・・うれしくて、うれしくて、たまんねーや!はははっ!」
泣き笑いの滝沢。泣くまいと必死に涙をこらえている板津。やさしく微笑んでいる咲。弟がきたとはしゃいでいる結と潤。そして目を閉じて眠っている滝沢と咲の息子。ヘンテコだけど、とてもシアワセな家族の姿であった。