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神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
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化物語 -もう一つの物語-

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 忍野忍。彼女は僕達にすっかり馴染んだ存在である。
 そして、僕の中で、戦場ヶ原を除いて、最も大切な存在である。
 春休みのことである。
 僕は吸血鬼に襲われた。
 血も凍るような――美しい鬼だった。
 その鬼こそが、今の忍野忍。
 あれは、僕が僕だったから故に起きた一連の事件。
 お人好しで、誰でも助けで、放っておけなくて、見て見ぬ振りができない。
 そんな僕が起こした事件。
 二度と語りたくない、誰にも言いたくない傷の物語。
 その春休みをきっかけに、僕達の関係は第三者には非常に分かりづらい、ややこしいものとなった。
 互いが互いの主人で。
 互いが互いの従僕で。
 言葉にすれば簡単だが、実際はこれ以上に難しく、複雑である。
 きっと、これ程複雑でややこしく、視界不能なものはないだろう。
 そして僕は、その日をきっかけに、ありとあらゆる怪異に、人に出会った。
 初めは――鬼。
 そして、猫、蟹、蝸牛、猿、蛇、蜂、鳥、憑藻神。
 それに習って、人には、羽川翼、忍野メメ、戦場ヶ原ひたぎ、八九寺真宵、神原駿河、千石撫子、貝木泥舟、影縫余弦、斧乃木余接。
 彼らと出会った。
 僕らを取り巻く怪異に纏わる物語は――僕と忍から始まったのである。
 そう思うと、春休みのことは、チャラにできる。
 ――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、怪異の王、怪異殺し。
 そんな伝説の彼女が今、こうして人間もどきの吸血鬼、下等な存在、僕の影に縛られ、八歳の少女の姿をして今を過ごしてくれて、僕は感謝でいっぱいである。
 安心していられる、今日を一緒に生きていけれる。
 明日を迎えようと思える。
 だからといって、僕が犯した罪は消えることはないし、忘れることもない。
 一生彼女と生き、一生彼女に対して償い、一生彼女を背負うって誓ったんだから。
 まあ、償っても、償いきることなんてないんだけれど。
 そんな『今』を楽しく生きる僕に。
 一つの試練が降り注ぐ。
 それで――僕はやっぱり間抜けで、愚かで、馬鹿で。
 弱くて薄っぺらい人間なんだと、改めて思い知らされた。
 ……本当に、自分に呆れてしまった。
 そんな物語を、僕は語ろう。
 さあ、覚悟はできただろうか。
 予め、全てを語れなかったときのため、結論を言っておこうと思う。
 確かにこれは、春休みと違って、ハッピーエンドだ。
 ただ、僕の間抜けさがよく分かる。
 僕は、過ごしている『今』の大切さを思い知った。
 あの春休みが僕の今後の生活にどれだけの影響を及ぼしていたのか、知ることができる。
 大切な春休みだったと、実感できる。
 ……これだけ聞いていると、何だ、そうでもないんじゃないのか? と思うかも知れないが、そうじゃない。
 過酷な現実を知ることになる。
 厳しいことがいくつもあった。
 それを全て乗り切るのは大変だった。
 そんな僕の只の苦労話――もう一つ存在する物語を。
 今から、阿良々木暦は語ろうと思う。
 是非、聞いて欲しい。