二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

化物語 -もう一つの物語-

INDEX|14ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

010



 ――僕の、いや、僕達の全ての始まりは。
 あの春休みの直前――三月二十五日からだと僕は思う。
 僕はあの日、羽川翼と出会った。
 色々話した後、彼女の方からこう切り出してきたのだ。
 ――ねえ、阿良々木くん。
 ――阿良々木くんは、吸血鬼って信じる?
 と、彼女から、話を持ち出したのだ。
 ――多分、この瞬間から僕の運命は動き出したのだ。
 本来なら関わることがなかったであろう怪異に。
 僕は関わり、運命を狂わされた――否、狂わしたのだ。
 そして人間でいることを諦め、吸血鬼もどきの人間としてこれから生きていくことを決めた。
 怪異に一度でも遭うと怪異に引かれる。
 この『ひかれる』は、引かれるなのか、惹かれるなのか、曳かれるなのか、轢かれるなのか、定かではないが――だからこそこの後も、僕は立て続けに障り猫、おもし蟹、迷い牛、レイニー・デヴィル、蛇切縄、囲い火蜂、しでの鳥などの――様々な怪異と出会った。
 けれど、それをきっかけに、戦場ヶ原ひたぎ、八九寺真宵、神原駿河、千石撫子と出会った。
 ついでに言うと、貝木泥舟、影縫余弦、斧乃木余接、臥煙伊豆湖にも出会った。
 それで僕は変わったのだ。
 いい意味や、悪い意味で。
 僕は成長できたのだ。
 そしてきっと彼女たちも成長したのだろう。
 戦場ヶ原と羽川がいい例だと思う。
 ――友達を作ると、人間強度が下がるから。
 そう言って人間関係を築かなかった、否、築けなかった僕が、これ程成長したのは、ある意味怪異のお陰なのである。
 今の阿良々木暦がいるのは他ならぬ彼女たちがいたから。
 なのに。
 それなのに――
 僕が置かれた状況では。
 どうやら彼女たちと一切の関わりがないみたいだ――


「――どういうことだ……?」
 僕、阿良々木暦の携帯には、最近――春休みを境に――急激にアドレスの登録数が増えた。
 なのに、今僕の視界に映る携帯の画面には。
 『羽川翼』の名前しか。
 表示されていなかった。
 いくら探しても、いくら探しても、いくら探しても、戦場ヶ原ひたぎの名前も、神原駿河の名前も、千石撫子の名前も、臥煙伊豆湖の名前も。
 映ることはなかった。
 アドレスは一件。
 羽川のみ。
 それは。
 その画面はまるで――
「ゴールデンウィーク明けまでの――母の日までの僕の携帯の状況と同じじゃないか――」
 でも、今は二学期である。
 夏休み明け。
 それなのに、なぜ羽川の名前しか表示されないんだ…………?
「……ん? そう言えば――」
 気になっていたこと。
 さっき、火憐は、あいつは一体、何て言った?
 僕が連絡を入れると言って。
 戦場ヶ原ひたぎの名前を出したとき。
 あいつは――こう言った。
 ――せんじょうがはら? 誰、それ?
 ――紹介されてねーぞ。てか、そのことを聞いたことねえよ。
 僕は確かに、彼女として二人に戦場ヶ原のことを紹介したはずなのに。
 火憐のその反応は――知らない人の名前を聞いた反応そのものだった。
 それから分かることはただ一つ。
 火憐と月火は――戦場ヶ原を知らない。
 戦場ヶ原と会ったことがない。
 そうとしか、言いようがない。
「でもそれじゃあ、矛盾してるんだよな……。僕が紹介したのに、会ったことない、知らない人になっているんだから」
 矛盾――している。
 僕と――彼女たちの認識が。記憶が。思い出が。記録が。出来事が。
 矛盾して――ずれている。
 食い違っている。
「そう言えば、あいつらもう一つ気になることを言っていたよな――」
 火憐の台詞。
 ――はあ? あたし達、髪型変えてねーし。
 ――あたし達三人とも、髪型は前とは変わんねえぜ。
 髪型――か。
 髪型って、そう言えば吸血鬼って自由に変えれるんだよな、確か。
 どうでもいいけれど――
「そうだったよな? 忍」
 僕は影に向かって、そこに潜んでいる吸血鬼を呼んだ。
 忍野忍を、呼んだ。
 けれど、
「――――」
 無反応だった。
 何も起こらない。
 あの金髪の外見年齢八歳――今だけ十歳以上――の吸血鬼が出てくることはなかった。
「…………忍? どうした?」
 心配になって声が大きくなる僕。
 ひょっとして寝ているのか? 朝だし。
 いやしかし、ある意味今は非常事態だぞ?
 ペアリングしている僕の感情がダイレクトに伝わっているんじゃ――あれ?
 忍――吸血鬼?
 忍野忍――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
 春休み――
「そうだ――吸血鬼。忍野忍。そして――後遺症」
 そう。
 すっかり忘れてしまっていた。
 今の僕の状態を。
 僕は、吸血鬼から人間に戻ったが、その時後遺症として、すば抜けた回復能力、治癒能力が残っていたはずだ。
 ちょっとした怪我も。
 骨が折れても。
 腕が引きちぎれても。
 身体が真っ二つになっても。
 すぐに回復する(最後の三つは、血を飲ませた直後だったり、多く飲ませた場合だけだが)。
 そしてそのスキルは。
 人間の風邪にも通用するはずである。
 人間ごときのウイルスに、吸血鬼の治癒能力、回復能力が劣るはずがない。
 怪我もしにくい、病気にもなりにくい――である。
 だから、僕が今、風邪を引いているということはおかしいということであり――つまりそれは。
 今の僕が――
「吸血鬼じゃ――ない……?」
 今の僕は、完全な人間――とはいかなくても、元に戻りつつあると、そういうことか?
 じゃあ――忍は?
 忍野忍は――どこに? どこに行った?
 なぜ僕は――吸血鬼じゃない?
 ――否。
 今の僕が、吸血鬼じゃないと決まった訳じゃない。
 今の僕が、忍と繋がっていないという訳じゃない。
 夏休み明けの――八九寺と『くらやみ』に纏わる――出来事の所為で。
 ちょっとだけ、ほんの少し焦っているだけであって――決して、今の僕が吸血鬼じゃないという訳じゃない。
 それに――調べる方法だってある。
 それも最も簡単な方法が。
 それはだって――鏡を見るだけなのだから。
 僕は、風邪の所為でかなり倦怠感を感じるが――残った気力を振り絞って、自分の勉強机へと、這ってではなく(さすがにそこまではダウンしてない)、立って向かった。
 そして、机の上に置いてある鏡の正面に後ろ向きに立って、上半身の服を脱いだ。
 …………いやいや、誤解しないで頂きたい。
 僕は、どっかの誰かみたいに、露出狂なんかじゃあない。
 普通に――そこにあるだろうものを見る、確かめるだけである。
 吸血鬼は鏡に映らないらしいが――それを確認するのではなく(それに僕は鏡に映る。映らなかったら大事件である)。
 首を捻って、自分の首筋を見る(これには、相当苦労した。少しだけ意外だった)。
 そして僕は、鏡に映る自分の首筋を見て――
「――――!?」
 ――驚愕した。
 驚き、愕いた。
 理由はただ一つ。
 今現在。
 机の上の鏡に映る僕の首筋には。
 春休みに。
 あの伝説の吸血鬼に噛みつかれた。
 自らの血を絞り尽くされるときにできた。
 彼女にお礼を言われながらできた。
 未だに残っている筈の、あの傷口――牙の跡が。