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アリス最初の旅

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少し先を歩くエースの後ろ姿を見ながら、アリスは溜息を吐く。

(何でこんな目に・・・)

エースと旅する事に同意したわけではない。時計塔に寄っての帰り道で偶然会って、ハートの城に戻ると言うので連れ立って歩いていただけだ。明るくて爽やかな話し相手が居れば、一人で黙々と歩くよりは楽しい。此処までは良かった。

「こっちから近道しよう」

と言い出した時、アリスは勿論反対した。けれども自信有り気にグイグイ引っ張られて・・・・迷ったわけだ。

さっさと歩くエース。アリスはこういう足場の悪いハイキングというかトレッキングというか、そういうものに慣れてない上に、靴だってこんな悪路を歩くような仕様じゃない。それでも置いて行かれたらば身の危険さえ有り得る状況なだけに、必死で見失わないように付いて行くのだ。だが、元々歩幅も違えば体力だって違う二人だ。距離は広がるばかりだった。


フッと時間帯が変わる。夜が来た。


すっかり視界は失われ、もう離れたエースを探す術も無い。近くの木の根元に腰を下ろして膝を抱える。月の光に浮かび上がる夜の森。闇に目が慣れると、それなりに見えるものだと思うが、だからと言ってエースを探して動き回る気にはなれなかった。このまま時間帯が変わるまで過ごすしかない。そう思い始めた頃、視界の端に灯りが点る。アリスは立ち上がり、声を出そうとした。こんな夜に森の奥深くにいるのはエースと自分達だけだという思い込みがある。灯りの数が急に増え一方向へ流れ出すのを見て、再び腰を下ろした。こういう時、自分は妙に冷静な人間だと思う。おろおろしたり、泣き叫んでも事態は改善しないと割り切るところが嫌いではない。でも、男にとっては可愛げのない女なんだろうなとも考える。エースにも、待って置いて行かないでと可愛い声を上げれば、今頃はこんな目に遭っていないのかも知れない。つくづく損な性格だ。


アリスー

潜めるような声で呼んでいるのに気付いたのは、それから直ぐだった。声のする方へ身体を向けて小さく此処よと返事をする。何度か繰り返しながら、エースが近くに来てくれた。遅くなってごめんな、と言いながらアリスの頭にポンと手を置く。これは意外だった。正直、泣きたいほど嬉しい。その気持ちを誤魔化す様に、隣に腰を下ろしたエースに、まだ見えている複数の明かりの方に腕を伸ばして聞いてみる。

「あれは何?」

「ん~。知らなくていいんじゃない?」

今度は、驚くほど冷たく突き放す様に言うエース。あの灯りの正体を知っているのか、いないのか。灯りが完全に視界から消えると、エースは立ち上がった。アリスも続いて立ち上がる。今度は見失わないようにと、慌ててエースのコートを掴んだ。そんなアリスを抱き上げると歩き出す。時間にして数分。既に設営されたテントの所へ辿り着いた。


焚き火の炎で辺りが明るいことと、連れが居るという心強さでやっと安堵するアリス。渡されたコーヒーを飲みながら、こんな目印になるような火を燃やしていて大丈夫なのかと聞くと、人に見られたくない者なら近づいてこないだろうと言った。

「それに、襲って来ても返り討ちにしちゃうから大丈夫だよ。」

隣に腰を下ろすエースに明るく笑って言われると、どこまで信用していいのか不安になる。正直、この騎士を名乗る男の剣の実力も知らない。だが、何かあった時の逃げ足が自分より速い事だけは確かだ。アリスを連れて逃げてくれるかどうかはわからないけれど。だから今日の教訓から、自分の身は自分で守る。これは鉄則だと思う。アリスは一杯文句があるのだが、取り敢えず食事を終えてからと後回しにして、エースの他愛も無い話を聞いているうちに睡魔が半端無い。



明るい!!

いきなり目が覚めた。見慣れぬ周囲の状況に慌てて身を起こす。記憶を整理する為の時間が必要だった。その直後に電撃の様に弾き出された答えが、

男の人と外泊!?

素早く自分の着衣を見回す。どうやらエースは紳士のようだった。が、一組しかない寝具で一緒に寝たのだろうか。想像しただけで顔から火が出そうだ。次の夜が来る前には絶対に森を抜けなければと強く思う。しかし、どんな顔をしてテントから出れば良いのだ・・・恥ずかし過ぎる。


エースが目覚めた時、アリスはまだ眠っていた。余程疲れているのか。向こう側を向いて眠っているので顔は見えないが、寝息が深い。
暫く、昨夜のことを考える。自分の横でいつの間にか眠っていたアリスをテントの中に寝かせて上掛けをかける時、一瞬手を止めた。彼女の左胸に耳を付ける。規則正しい音が聞こえる。でもそれは自分とは違う音だ。
アリスの世界とはどの様なところなのだろうか。時々興味を持って尋ねると、話してくれる彼女の居た世界。全く想像がつかない。役の無い世界。代わりの居ない世界。全ての人に等しく顔がある世界。そして、命が大事にされる世界。そこで、どんなゲームをしているのだろう。やはりくだらないルールに縛られているのだろうか。

君は、戻りたいの?

外に出たエースは、木立の間から見える空に小さく呟いた。




テントから出辛いアリスは、意を決して立ち上がる。寝具を綺麗に畳むと外に出て靴を履いた。が、エースの姿が見えない。あんなに顔を合わせづらいと散々悩んだのが馬鹿らしくなる。それにしても勝手がわからない所では、手持ち無沙汰だが何をしたら良いかわからないし、下手に歩き回るのも得策ではない。仕方が無いのでテントの中の片付けでも思ったが、寝具の他には物も無く掃除というほどの事でもない。部屋の隅に無造作に置いてあった袋を覗くと時計が幾つか入っている。秒針が時を刻む音がしないところをみると壊れているようだ。

(何故、壊れた時計をこんなに持っているの?)

そういえば、いつもユリウスが直している時計に似ている。アリスはここで何かに引っ掛かったのだが、自分でもそれが何に対してなのかよくわからずにいた。手繰り寄せようとする先がぼやけてしまう。袋を元の場所に置くと再び外に出て、ポケットの中の小瓶を取り出す。僅かに溜まり始めた液体。あの時、ペーターはいとも容易く小瓶の蓋を開けてはいなかったか・・・。だがアリスが何度小瓶の蓋を捻ってもびくともしない。それでも自然に液体は溜まってゆく。不思議なルールだ。

「何、見てるの?」

頭の上から声がする。いつの間にかエースが後ろに立っていた。アリスの持つ小瓶をヒョイと取り上げると、目の前で振っている。

「残り少ないね。これって何? 薬?」

「ここでゲームに参加する為の薬って言ってたわ。空だったのに少しづつ中身が増えるの。不思議でしょ?それより、何処に行っていたの?」


エースの朝の散歩の収穫である果物を食べると、テントを畳んで歩き出した。
アリスは次の夜までにこの森を抜けるためにはどうしたらいいか頭を捻る。ところがエースが色々と話し掛けてくるせいで、頭の中が纏まらない。このままくっ付いて歩き回っていたら、またテントの中で一緒に眠ることになる。それは絶対に避けたい。適当に歩いているようにしか見えないエースに付いて行くよりも、自分一人の方が早く帰り道に戻れそうな気もしてきた。
作品名:アリス最初の旅 作家名:沙羅紅月