好きならしょうがない
「ヒバリさんひどいです」
せめてそう一言文句を言おうと思った。
けれどよく考えたら、もともとヒバリさんは暴行大好き。気に入らなかったら咬み殺す。気に入ったらやっぱり咬み殺す。
独自のルールがあることはわかるけど、意味がわからない謎の人だ。
なので俺はヒバリさんのことはとりあえず暴行が好きな人だと思っている。山本は野球、獄寺くんはダイナマイト。ヒバリさんは暴行。
ヒバリさんはどうやら十年を経て暴行というカテゴリに殴る蹴るなどのノーマルな暴行に性的暴行も加わったようだ。大人はちがうなあ。
「なに考えてるの?」
こんな状況だというのに考えごとをしていた俺が気になったのか、覆いかぶさったまま、ヒバリさんは俺を見下ろしていた。
すごい。ヒバリさんって俺が考えてることに興味持ったりするようになったんだ。
状況も忘れて感動してしまった。
「ねえ、聞いてる?」
頭上でヒバリさんがむっとした顔で激しく突き上げられた。
うう、いたい。身体の中をかき回されているみたいで気持ちわるい。
抵抗はとっくにあきらめていた。特訓で立ち上がるのも無理だったのだ。そこを荷物のように抱えあげられ、使われていないほこりっぽい部屋に投げ捨てられて、現在に至っている。
俺が脱がされたのはズボンだけ。ヒバリさんはネクタイをゆるめて、前をくつろげただけという誰が見てもわかる強姦スタイルだ。
「すみませんすみません。聞いてますし答えますので、止まるか、抜くか、できれば離れてもらえませんか」
止まった。しかし抜く気も離れる気もないらしい。
はあはあ、と息を吐いて整える。その間もヒバリさんは待っている。けど突っ込んでるアレはしっかり主張しているので、動かなくてもつらい。
しまった。こんなことなら黙ってさっさと終わらせてもらったほうがよかったかもしれない。そんなことを思ってもあとの祭り。
えーと、なんだっけ。「なに考えてる?」だったか。
まず自分がなんでこんな苦痛を味わうことになってるんだという疑問から始まり、ヒバリさんになにかしたかな。そういやヒバリさんはマフィアのボスになっちゃった(らしい)十年後の俺に比べて弱っちい俺に不満。
ヒバリさんは今も昔も暴行大好き。性的暴行も立派な暴行。だからこれはたぶんストレス解消。
だって好きなものはしょうがないよなあ。山本も野球が好きだし、獄寺くんだってダイナマイトが大好きだ。というのがあきらめ体質で流されやすい俺の結論。
「えーと、ヒバリさんは……好きなんだろうなあ、と」
暴力的なセ…っくすが。
ごにょごにょとごまかした。無理やり服をはぎ取られ、足を開かれ、なんだかえらい目にあっているけど、俺はまだそういう言葉を口に出すには抵抗がある。
「うん。そうだね」と肯定されると思いきや、真上のヒバリさんは目をまるくした。
「今の君が言うとは思わなかった」
いや、今の俺こそ言いたいんじゃないでしょーか。
遅刻したらトンファーで殴られ、廊下で獄寺くんたちと話していれば追いかけられ、シンプルな打撃用武器は改造、うわさでは風紀委員として君臨するために年齢偽って中学にいるとか。
山本なら野球の素振り、獄寺くんならダイナマイトの火薬の配合がうんたらかんたら、俺なら新作ゲームの購入のために貯金と言った努力だろう。これはもう好きだから仕方ないと納得するしかない。
「好きなのは重々理解していますけど、こういうことはできれば好きなひととするべきだと思うんです」
大人の世界はよくわからないけど、俺のモラルでは好きなひとと、できれば女性としてほしい。というかしてほしかった。
十四歳のモラルを語りながら、ぐいぐいヒバリさんの胸を押すがびくともしない。
そんな手が邪魔だったのか、おおきな手で両手首を捕まれて床に押しつけられた。
「そこが問題なの? してるでしょ。好きなひとと」
「はい……?」
話がかみ合わない。
俺の問いに返された答えにぐるぐるしていると「じゃ、動くよ」とヒバリさんが空いた手で俺の腰をつかもうとする。
「ちょ、ちょっと待って! ヒバリさん。俺のこと好きだったんですか?」
そんなバカな。だって目の前にいるのは十年後とはいえヒバリさんだ。
そう思いながら尋ねると、ちょっとだけ目を伏せて、俺の向こうに懐かしいものを見るかのようにほほえんだ。
「好きだよ。いつからかは覚えてないけど」
こんなふうにわらえるんだ。
わかった。ヒバリさんはさっきの俺の言葉を『俺』に言われたことがあるんだ。俺の知らない十年を過ごした沢田綱吉に。
「……俺、なんて返事したんですか」
「ふられた。『俺も好きでした』って言われて」
過去形だ。
未来の自分の台詞にもおどろいたけれど、もっとおどろいたのはヒバリさんの言葉が現在のものだったからだ。
『好きだよ』と彼は言った。
ふられたのに。未来の俺は死んでいるのに。
俺はヒバリさんが好きだった自分も、俺を好きなこのヒバリさんも知らないのに。
「いろいろ、あったんですね」
「ああ、いろいろあったね。思い出すとムカつく」
「はあ……いだっ」
このひと思い出にムカつきながら突き上げやがった。
ああ、でも昔から遅刻してきた俺にトンファーでぶったたきながら説教してたなあ。もちろん俺はいたいいたいと悲鳴を上げるか気絶するかで聞いてなかったけど。
「あのっ、申し訳ないんですが、未来の俺はともかく、俺はふつーに女の子が好きで……」
とぎれとぎれになりつつも必死でこんなことはいやだと訴える。俺は彼の知っている沢田綱吉ではない。
ぴたりと俺を苛む動きが止まる。
「知ってるよ。十年前の僕だって、今の君のことなんか好きじゃなかった。気がついたら僕は君が好きで、君は過去になってた。何度記憶をたどっても君が僕のことを好きだった瞬間なんてわからない。君はいつ僕のことを好きだったのかな」
最後に聴こえた言葉はとても小さかった。
思わずいたみに耐えるためにつぶっていた目を開いた。
前髪が短かくて、背が高くて、人の話を聞くようになったヒバリさん。俺は暴行が大好きなヒバリさんしか知らないんだ。
「ひとつ確認したいのですが、俺は身代わりでしょうか」
俺はヒバリさんのことが好きではない。
学校の廊下ですれちがうとき、きまぐれで殴られるんじゃないかとどきどきする。窓から見える屋上のフェンスに寄りかかって、ひとり昼寝をする姿にどんな寝顔をしているんだろうと近づいてみたいと思ったりする。並盛の風紀をただすためと言いながら一緒に戦ってくれたつよさに憧れた。
未来に飛ばされて、十年たって中学を卒業しても、俺が死んでしまっても、一緒にそばにいて助けてくれたのがうれしかった。
でも、恋じゃない。このひとが好きな沢田綱吉を俺は知らない。それは俺じゃない。
身代わりだったらひどい。
「へんなかお」
むぎゅっと鼻をつままれた。もしかしたら泣きそうな顔をしていたかもしれない。
「沢田綱吉だったら別にちいさくてもおおきくてもかまわないけど、君が考えてるような理由じゃないよ」
「じゃあ、なんで俺、こんなめに……」
あきらめ体質で流されやすいとは自覚しているけれど結構いたい。
せめてそう一言文句を言おうと思った。
けれどよく考えたら、もともとヒバリさんは暴行大好き。気に入らなかったら咬み殺す。気に入ったらやっぱり咬み殺す。
独自のルールがあることはわかるけど、意味がわからない謎の人だ。
なので俺はヒバリさんのことはとりあえず暴行が好きな人だと思っている。山本は野球、獄寺くんはダイナマイト。ヒバリさんは暴行。
ヒバリさんはどうやら十年を経て暴行というカテゴリに殴る蹴るなどのノーマルな暴行に性的暴行も加わったようだ。大人はちがうなあ。
「なに考えてるの?」
こんな状況だというのに考えごとをしていた俺が気になったのか、覆いかぶさったまま、ヒバリさんは俺を見下ろしていた。
すごい。ヒバリさんって俺が考えてることに興味持ったりするようになったんだ。
状況も忘れて感動してしまった。
「ねえ、聞いてる?」
頭上でヒバリさんがむっとした顔で激しく突き上げられた。
うう、いたい。身体の中をかき回されているみたいで気持ちわるい。
抵抗はとっくにあきらめていた。特訓で立ち上がるのも無理だったのだ。そこを荷物のように抱えあげられ、使われていないほこりっぽい部屋に投げ捨てられて、現在に至っている。
俺が脱がされたのはズボンだけ。ヒバリさんはネクタイをゆるめて、前をくつろげただけという誰が見てもわかる強姦スタイルだ。
「すみませんすみません。聞いてますし答えますので、止まるか、抜くか、できれば離れてもらえませんか」
止まった。しかし抜く気も離れる気もないらしい。
はあはあ、と息を吐いて整える。その間もヒバリさんは待っている。けど突っ込んでるアレはしっかり主張しているので、動かなくてもつらい。
しまった。こんなことなら黙ってさっさと終わらせてもらったほうがよかったかもしれない。そんなことを思ってもあとの祭り。
えーと、なんだっけ。「なに考えてる?」だったか。
まず自分がなんでこんな苦痛を味わうことになってるんだという疑問から始まり、ヒバリさんになにかしたかな。そういやヒバリさんはマフィアのボスになっちゃった(らしい)十年後の俺に比べて弱っちい俺に不満。
ヒバリさんは今も昔も暴行大好き。性的暴行も立派な暴行。だからこれはたぶんストレス解消。
だって好きなものはしょうがないよなあ。山本も野球が好きだし、獄寺くんだってダイナマイトが大好きだ。というのがあきらめ体質で流されやすい俺の結論。
「えーと、ヒバリさんは……好きなんだろうなあ、と」
暴力的なセ…っくすが。
ごにょごにょとごまかした。無理やり服をはぎ取られ、足を開かれ、なんだかえらい目にあっているけど、俺はまだそういう言葉を口に出すには抵抗がある。
「うん。そうだね」と肯定されると思いきや、真上のヒバリさんは目をまるくした。
「今の君が言うとは思わなかった」
いや、今の俺こそ言いたいんじゃないでしょーか。
遅刻したらトンファーで殴られ、廊下で獄寺くんたちと話していれば追いかけられ、シンプルな打撃用武器は改造、うわさでは風紀委員として君臨するために年齢偽って中学にいるとか。
山本なら野球の素振り、獄寺くんならダイナマイトの火薬の配合がうんたらかんたら、俺なら新作ゲームの購入のために貯金と言った努力だろう。これはもう好きだから仕方ないと納得するしかない。
「好きなのは重々理解していますけど、こういうことはできれば好きなひととするべきだと思うんです」
大人の世界はよくわからないけど、俺のモラルでは好きなひとと、できれば女性としてほしい。というかしてほしかった。
十四歳のモラルを語りながら、ぐいぐいヒバリさんの胸を押すがびくともしない。
そんな手が邪魔だったのか、おおきな手で両手首を捕まれて床に押しつけられた。
「そこが問題なの? してるでしょ。好きなひとと」
「はい……?」
話がかみ合わない。
俺の問いに返された答えにぐるぐるしていると「じゃ、動くよ」とヒバリさんが空いた手で俺の腰をつかもうとする。
「ちょ、ちょっと待って! ヒバリさん。俺のこと好きだったんですか?」
そんなバカな。だって目の前にいるのは十年後とはいえヒバリさんだ。
そう思いながら尋ねると、ちょっとだけ目を伏せて、俺の向こうに懐かしいものを見るかのようにほほえんだ。
「好きだよ。いつからかは覚えてないけど」
こんなふうにわらえるんだ。
わかった。ヒバリさんはさっきの俺の言葉を『俺』に言われたことがあるんだ。俺の知らない十年を過ごした沢田綱吉に。
「……俺、なんて返事したんですか」
「ふられた。『俺も好きでした』って言われて」
過去形だ。
未来の自分の台詞にもおどろいたけれど、もっとおどろいたのはヒバリさんの言葉が現在のものだったからだ。
『好きだよ』と彼は言った。
ふられたのに。未来の俺は死んでいるのに。
俺はヒバリさんが好きだった自分も、俺を好きなこのヒバリさんも知らないのに。
「いろいろ、あったんですね」
「ああ、いろいろあったね。思い出すとムカつく」
「はあ……いだっ」
このひと思い出にムカつきながら突き上げやがった。
ああ、でも昔から遅刻してきた俺にトンファーでぶったたきながら説教してたなあ。もちろん俺はいたいいたいと悲鳴を上げるか気絶するかで聞いてなかったけど。
「あのっ、申し訳ないんですが、未来の俺はともかく、俺はふつーに女の子が好きで……」
とぎれとぎれになりつつも必死でこんなことはいやだと訴える。俺は彼の知っている沢田綱吉ではない。
ぴたりと俺を苛む動きが止まる。
「知ってるよ。十年前の僕だって、今の君のことなんか好きじゃなかった。気がついたら僕は君が好きで、君は過去になってた。何度記憶をたどっても君が僕のことを好きだった瞬間なんてわからない。君はいつ僕のことを好きだったのかな」
最後に聴こえた言葉はとても小さかった。
思わずいたみに耐えるためにつぶっていた目を開いた。
前髪が短かくて、背が高くて、人の話を聞くようになったヒバリさん。俺は暴行が大好きなヒバリさんしか知らないんだ。
「ひとつ確認したいのですが、俺は身代わりでしょうか」
俺はヒバリさんのことが好きではない。
学校の廊下ですれちがうとき、きまぐれで殴られるんじゃないかとどきどきする。窓から見える屋上のフェンスに寄りかかって、ひとり昼寝をする姿にどんな寝顔をしているんだろうと近づいてみたいと思ったりする。並盛の風紀をただすためと言いながら一緒に戦ってくれたつよさに憧れた。
未来に飛ばされて、十年たって中学を卒業しても、俺が死んでしまっても、一緒にそばにいて助けてくれたのがうれしかった。
でも、恋じゃない。このひとが好きな沢田綱吉を俺は知らない。それは俺じゃない。
身代わりだったらひどい。
「へんなかお」
むぎゅっと鼻をつままれた。もしかしたら泣きそうな顔をしていたかもしれない。
「沢田綱吉だったら別にちいさくてもおおきくてもかまわないけど、君が考えてるような理由じゃないよ」
「じゃあ、なんで俺、こんなめに……」
あきらめ体質で流されやすいとは自覚しているけれど結構いたい。
作品名:好きならしょうがない 作家名:るーい