聖なる夜
雪男は口を閉ざしている。
もう、なにも言わない。
返事を待っているようだ。
シュラは眼を伏せた。
頭の中を整理したかった。
けれども、うまくいかない。
ただ時間が過ぎていく。
結局、頭の中が整理できないまま、眼をあげた。
雪男の顔を見る。
眼が合った。
だから、シュラは笑おうとした。
でも、うまくいかなかったかもしれない。
口を開く。
「今までがんばってきたご褒美、もらった気分だ」
そう雪男に告げた。
今の自分の表情は、きっと、みっともなく崩れている。
鼻の付け根のあたりが熱くなり、じんとしみるように痛くなった。ダメだと思ったときにはもう、眼から涙がこぼれ落ちていた。それが頬をつたうのを感じる。
雪男が距離を詰めてきた。
抱き寄せられる。
シュラはあらがわずに身体を預けた。
背中に雪男の手がまわされる。
「……じゃあ、信じてもらえるんですね」
そう問われた。
どうやら確認を取りたいようだ。
雪男らしい行動である。
それがおかしくて、シュラは笑った。
「信じるに決まってるだろ、バカ」
何時間も飛行機に乗って日本からローマまでやってきたのだ。
そこまでしてもらって、信じないわけがない。
嬉しかった。
シュラは雪男の背中のほうに手をやる。
そして、ぎゅっと抱きしめる。
いろんなものが伝わってくる。
さっき雪男の言ったとおりだ。電話で話しているのとは、やっぱり、違う。
雪男が抱きしめ返してくるのを感じながら、幸せだと思った。