聖なる夜
「……本当はシュラさんが日本に帰ってきたときに言うつもりでした」
雪男が話している。
なにも考えられない状態のシュラは話をただ聞く。
「でも、シュラさんから仕事で帰ってこられなくなったって聞いて。どうしようか迷ったんですが、どうしても、逢いたくて、逢って、言いたくて、飛行機の予約、入れました」
雪男は日本からローマまでやってきた。
シュラに逢って、結婚を申し込むために。
それを、今の状況を、ようやくシュラは理解した。
直後、心臓が大きく強く打った。
自分は今、プロポーズされている。
えええええええーっと胸の中で叫ぶ。
動揺する。
どうしたらいいのだろうか。
わからない。
予想外すぎた。
言葉が出てこない。
ぼうぜんと雪男を見る。
雪男はさらに話を続ける。
「もっと早くに言いたかった。だけど、高校生の僕がそんなこと言ったって本気にしてもらえないだろうって思ったから、言いませんでした」
それはたしかにそのとおりだ。
まだまだ雪男が高校を卒業しないような頃に結婚してほしいと言われても、シュラはなんの冗談だと一笑に付しただろう。
今だからこそ、こんなに動揺しているのだ。
「だから、ずっと待ってました。言えるときがくるのを待ってました」
雪男は少し笑った。
「今でもまだ大人としては見てもらえてないかもしれない」
もうすぐ高校を卒業するとはいえ、雪男はまだ成人していない。
「でも、これ以上、待てなかった」
雪男はシュラを真っ直ぐに見て、言う。
「僕はいまだにシュラさんより階級が下だけど、あなたを守りたいと思ってる」
そのメガネの向こうの眼は真摯だ。
「だから、信じてもらえませんか」
もうすぐ十八歳になる十七歳の本気。
それを信じてほしいと言っている。
「今日ひさしぶりに逢って、わかりました。というよりも、再認識しました。僕はあなたにそばにいてほしい。僕はあなたとともに暮らしていきたい」
なんの迷いもないように力強く、雪男は告げる。
「僕はあなたを愛してる」
これまで、好きだとは何度も言われたことがある。
しかし、愛していると言われたのは初めてだ。
以前なら、そんなことを言われても本気にしなかったかもしれない。のぼせて口走っただけだと判断したかもしれない。
だが、今は違う。
心を打たれた。